RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

鳩の撃退法@109シネマズ川崎  2021年8月28日(土)

封切り二日目。

席数246の【シアター1】は一席おきの案内なので
実質135席。
その八割ほどが埋まっている入り。

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嘗ての直木賞作家『津田(藤原竜也)』も
以前に出版した実際の出来事を元にした小説が訴訟沙汰になり
今ではすっかり干されてしまい、
流れ流れて富山市でデリヘルの運転手をして糊口を凌いでいる。

そんな彼が性懲りも無く、
同地での自身の体験をしたため、捲土重来を期す。

それは、
実際に起きた幾つかの事件を然も関係性があるようにつなぎ合わせ、
有り得たかもしれない可能性を加味した創作物との触れ込み。

しかし、書きかけの冒頭を読まされた編集者の『鳥飼(土屋太鳳)』は
以前の苦い記憶もあり、その一風変わった物語の
どこまでが事実でどこまでがフィクションなのかに疑念を持つ。

確かに事実は小説よりも奇なり。
仮説と思われた部分が現実を追いかけ・追いかけられるように展開し
ついにはぴたりとシンクロする。


本編はイマイマは東京の高円寺に居る『津田』が
過去を回想するカタチで語られる。

それもメタフィクションと逆メタフィクションを往還するような
かなりわかりにくい構成で。

しかも上下巻合わせて千ページ近い原作長編を
正味120分尺に収めているため、
特に最後の謎が明かされる場面では性急に過ぎ、
消化不良な表現を露呈してしまう。


なかんずく、主人公が発散しているであろう
圧倒的な魅力が伝わり辛い。

先の編集者は勿論、デリヘルの店長、いきつけの床屋の店主、
不動産屋の女性事務員、古本屋のおやじ、カフェのアルバイト店員、
高円寺のバーのママ、果てはワンナイトスタンドのヤクザの情婦まで
こぞって肩入れする、そのフェロモンはどこに有るのか。


また彼の行動にも一貫性が欠如。

危機が迫っていると周囲から言い聞かされているのに、
うかうかと色香に迷ってしまう意志の弱さはどこから出て来るのか。

一方で深遠な科白を吐きながら緻密な推理を巡らしたりする、
アンビバレンツな造形だが、キャラクターの不整合に近い印象で
どうにもしっくりこない。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


一方で、物語りの鍵となる「三万円」との金額を一種の小道具に
それとなく各所に忍ばせておきながら、
最後に芋蔓式に回収して行く流れはお見事と唸るも、
それはあくまでも原作の手柄だろう。