RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

エリザベート 1878@チネチッタ川崎 2023年8月27日(日)

封切り三日目。

席数129の【CINE2】の入りは五割ほど。

 

 

原題は〔Corsage〕で、
フランス語では元々は婦人服の胴部・身ごろのことらしく、
コルセットに近いものの意か。

とりわけ現代ではフェティシズムの、
しかし本作では女性の身体と精神を共に束縛する象徴として示される。

慣れない者が長時間装着すれば、
それだけで体調を崩すほどの
ほぼ拘束具に近いモノではないか。


邦題の1878年は、主人公が不惑を迎えた最初の歳。

しかし、当時の一般庶民の女性の平均寿命となっても
彼女の心の不安はいや増すばかり。


一つは、当時のヨーロッパ宮廷一といわれた美貌の衰え。

ほぼほぼ食事を摂らぬ厳しいダイエットを自身に課し、
体重を徹底管理、体形を維持しようとする。

男と同等の乗馬やフェンシングにも精を出し、
筋力を維持することにも抜かりない。

それでも、悲しいコトに容姿は日々衰える。
寄る年波への抗いは、並大抵のことではない。


また、旺盛な好奇心は、当時の欧州の情勢へと当然のように向かう。
しかし、政治は男の世界の仕事であり、
彼女が口出しすることはおろか知識として取り込むことさえ許されぬ。

どこまでも籠の鳥。
自身の存在意義は、その美貌を人前に曝し、
夫である皇帝の横で微笑むプロパガンダ的な役割だけなのか。


結果として、窮屈な宮廷や行事を抜け出し、
日々を旅の中に過ごす。
そこには新鮮な出会いも存在する。

また、傷病兵士や、精神病院への慰問も
一時の心の安寧を得る場であったろう。


もっとも、彼女を束縛する旧弊の数々は、
自身のレゾンデートルでもある。
名門の出であり、
オーストリア皇后との立場がそうさせている
なんともアンビバレンツな状態も、他方
使用人を多く使い、我儘を通し放題の暮らしを成立させている
バックボーンでもある。

そこの矛盾に、本人は懊悩することはない。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


主演の『ビッキー・クリープス』は
エグゼクティブ・プロデューサーとしても名を連ね、
本作が彼女の強い意志の元に制作されたことが判る。

加えて実年齢も39歳と近似。

過去の中に現在を織り込むことで、
イマイマの女性が置かれている環境のメタファーにもなっている。

女性の身体と精神の解放は、
今だしである。