RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

アネックス展2023-自立と統合-@ポーラ ミュージアム アネックス 2023年3月19日(日)

後期の会期はは3月17日(金)~4月16日(日) 。
出展作家は『秋山美月』『佐藤幸恵』『永井里枝』の三名で、
何れも女性かな。

 

『秋山美月』の〔Afraid to look〕は
円形に固められた樹脂の中に
鍵が埋め込まれている。

平らな台の上にかなりの数が置かれ、
入り口を背に、右手上は透明、
左下に行く毎に、
濃い藍色に次第に変容。

鍵を何のメタファーと取るかの解釈は様々だろう。


『佐藤幸恵』の〔気色/Scene〕のシリーズは
くすんだ硝子で形成された物体の中にモノが埋め込まれたり、
刺さっていたり、貫通していたり。

更にはそこから伸びた金属の線には
様々な文物が付帯。

一見して賑々しくあるものの、
素材の性質のせいか静謐さを感じてしまう。

 

 

ロストケア@109シネマズ川崎 2023年3月25日(土)

封切り二日目。

席数127の【シアター2】の入りは七割ほど。

 

 

巷間語られている、
自助・共助・公助の順序が
さも当然のように。

しかし、元々我慢強いのに、
お上に頼ることを善しとしない国民性から、
介護する側、される側が共倒れになるケースも多いと聞く。

また、生活保護についても、
受給までのハードルは高く、
本当に必要な世帯に届いていない可能性も
常々指摘されるところ。

本作は、そうした社会の歪みから生まれる悲劇を
極大化し描写。

とは言え、こうした痛ましい事件は、
単発では新聞やテレビのニュースでも
折々に目にすること。


『斯波(松山ケンイチ)』は
訪問先の家族からも職場の所員からも評判の良い介護士

対応は真摯、思いやりの態度も自然で、
そのたたずまいはさながら聖職者のよう。

ただ、年齢の割にはかなりの白髪で、
「随分と苦労したのでは」とは同僚の噂話。


そんな彼が殺人事件の、
それも四十人以上の老人を殺害した容疑者として取り調べを受ける。
対峙するのは長野地検の検事『大友(長澤まさみ)』。

ここで驚くのは、本人があっさりと容疑を認めてしまうこと。
勿論、嫌疑を掛けるまでの検察側の丁寧な捜査はあるものの
(上司は一過性の単純な事件として急ぎ処理するよう、
いかにも免罪を生むような指示をしていたのだが・・・・)、
その過程は一本道。謎解きの要素は弱め。


ではどこに尺が割かれているかと言えば、
『斯波』が(「救った」と表現する)殺人を犯すようになった経緯と
『大友』自身が抱える家族の問題。

彼はシリアルキラーでは全くなく、
冒頭「聖書」の一節が提示される如く、
あくまでも介護される老人と
その家族を慮ってのことと言い切る。

前者は尊厳を、後者は慰撫を意識してのものだと。


実際に要介護の親族が居ると
相応の時間を費やさねばならぬことは間違いなし。

また、外からの助けを当人が拒否するケースもあり
家族は次第に疲弊していく。

そうしたことへの救済であるのだと。


裁判に当たっての被害者家族の反応も複数通り。

「(殺された)父親を返せ!」と声高に叫ぶ者、
一方で肩の荷が下りたの如く
自身の幸せに改めて向き合える者、
どちらも真の姿ではあるのだろう。

とは言え、根底に在るのは
親族への愛情と、肉体的疲労から来る戸惑いとの
血の繋がりが生む、抜き差しならない
アンビバレンツな感情なのには違いない。

もう一つのテーマ、
家族の関係性が浮かび上がって来る。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


ストーリーの主線はあくまでも
『斯波』の物語も、
並行して『大友』の事情も語られ。

幼い頃に両親が離婚した彼女は
女親の手一つで育てられ、
しかしその母親は娘に迷惑を掛けまいと
独り逍遥と老人ホームに入所。

が、次第に痴呆の症状が出始め
将来への暗雲が広がりつつある。

二十数年間音信不通であった父親との関係性も、
日々の多忙な業務を言い訳にし、先延ばしにした経緯。

そうしたわだかまりが、
『斯波』が触媒となり一気に爆発、
場所を変えて二人が向き合う最後のシークエンスは一種の「告解」。

『大友』が映る多くのシーンでの鏡像の多用は二面性の表現。
加えて、『斯波』の科白回しや外見の造り込みは
全てこの場面に集約する目的だったのだなと感嘆する。

 

 

YU SORA展@資生堂ギャラリー 2023年3月19日(日)

”第16回 shiseido art egg”の第二弾。

 

 

会場へと続く階段を降り
普段と異なる様子に戸惑ってしまう。

明るい、無茶苦茶明るい!

当該スペースが
ここまで煌々と照明されていたことは
嘗て有っただろうか?(いやない)。

こうして見ると、
ホントにホワイトルームなのだな、との
感慨を持つ間もなく、
展示されている作品に目が引き込まれ、
しかし、時として怖気もふるう。


壁に掛けらている刺繍はまだ良いのだ。
厚手の白い布に黒い糸。
身の回りに在る
鋏、コード、安全ピン、等が縫い上げられている。

しかし、踊り場に置かれた洗面台、
広いスペースに置かれたリビングセット、
そして狭いスペースには生活の痕跡が残るような家具が幾つも。

それらは全て純白で
そこに黒い糸が纏わるように。

いや、これは・・・・。

漆黒の糸は女性の情念が
しっかり記憶と共に絡まっているようにしか
見えないのだが。


勿論、刺繍の細かさには驚嘆。
中には、レシートをそのまま
再現したものもあり。

それも含めて
日常の記憶が歴然と残されている。


会期は~4月9日(日)まで。

https://gallery.shiseido.com/jp/exhibition/5655/#blk_yusora

本濃研太ダンボール彫刻展@エコルとごし 2023年3月21日(火)

”エコルとごしに動物たちがやってきた!”とのサブタイトル。

当該施設は初訪。

【下神明】と【戸越公園】の
何れの駅からもそこそこの距離で
丁度中間あたりか。


裏面は【戸越公園】に
正面は【文庫の森】に面するとの
絶好のロケーション。


標題展の会期は~ 3月26日(日)。


【1Fエントランス/コミュニティラウンジ】に
作品は散在。

自分などは初めて観るので、
興味津々にじっくりも、
親子連れは特に注意を向けているようには見えず。

思うに、しょっちゅう来ているので、
もう慣れてしまっているのか、と。


それにしても、
これが段ボール素材?と訝るほどの質感と
立体的で迫力のある造形。

一方で、彩色や表情はユーモラス、
ややのギャップも、それが却って作品としての面白さを醸す。

作品が置かれている場所も様々、
意外な所にも在り、探す楽しさもある。

 

 

 

 

 

2023フォックス・タルボット賞受賞写真展@写大ギャラリー 2023年3月20日(月)

 

標題の受賞展を観るのは二度目。

「佳作」以上の十名の作品が並ぶ。

第一席    島を渡る          星子桃花
第二席    ボーン           吉村周
第三席    景観と境界      礒﨑龍平 
モノクロ賞 重ね               山﨑心宇
奨励賞 femina           渡邉結愛
佳作    Time Machine        木村奏斗
佳作    Musica. Con amore. 上野瑠夏
佳作    根無草               Chi Chao
佳作    私の声を記録する     中曽根希音
佳作  ほんの僅かに夜     髙森千瑛

プリントアウトされるサイズも統一されており、
整然と、との表現がぴったり。


『吉村周』の作品は
(たぶん)漂着物を使い
太古の生物の化石を表現したもの。

中には「蝶」もあり、思わず笑ってしまう。

アイディアに加え、ホントに存在したかも
との思いが脳裏をよぎる。


『礒﨑龍平』の作品では、
身の回りに在る緑が
確かに垣根となっていることに改めて気づかされる。

馴染んだ景色でも視点を変え、
タイトルで括れば違って見える好例。


『中曽根希音』の作品が
中では一番好きかも。

(おそらく)本人のセルフポートレート

勿論、声は写っていないし、
中にはマスク姿のものまで。

それでも表情や姿勢からは、
何かを訴える気持ちがにじみ出る。

年を取ると、だんだん表情が硬くなるからね。
これは今だからこそ可能な表現。


会期は~3月25日(土)まで。

 

 

Beyond@UNPEL GALLERY 2023年3月19日(日)

サブタイトルは
多摩美術大学日本画専攻卒業生・修了生四人展”。

 

四人の経歴を確認すると、
何れも2022年までに卒業しているようなので、
所謂「卒展」ではない模様。


『宮崎篤』の〔連なる〕は
三連の、三分割された鰐、
それも頭部だけを大きく描いたもの。

その迫力は凄まじいものの、
太古にはこれくらいの大きさの鰐は
実際に生息したのじゃなかろうか。


『村田遥香』の作品群は
墨で描かれたモノクローム

題材は鳥、犬、金魚と
空、陸、水の夫々に住まうもの。

端正な構成乍ら、勢いと、
不思議と色彩までを感じてしまう。


会期は~4月2日(日)まで。


コンペティション@チネチッタ川崎 2023年3月18日(土)

封切り二日目。

席数107の【CINE1】の入りは三割ほど。

 

 

元々は、ある大富豪の
ジャストアイディアから転がり出た話。

製薬企業で財を成し、一万人の従業員を養う彼は
八十歳の誕生日にふと思い付く。
自分の名前を後世に残し、且つ
多くの人から感謝されるコトをしたい、と。

自身の名を冠した橋を(地域貢献宜しく)掛ける、と
同時に出たのが
「賞を獲れるような映画作品に出資する」との企画。

映画であれば短い期間で成果を出せるとの思いも有ったかも。

勿論、本人は仕事にかまけ、文化・芸術なんぞに
とんと興味は無く。

ノーベル賞受賞作家の(読んだこともない)小説の版権を金ずくで買い、
多くの賞を総なめにした監督をアサインする。


しかし、その監督『ローラ(ペネロペ・クルス)』は
相当に変わり者で、エキセントリック。

台本の読み合わせ時のメソッドも、
数学的のようで実は感覚的。
「※※の感情が三割」などと言われても、
普通であればとても対処できぬような。

或いは、5屯もある大石を
クレーンで俳優たちの頭上にぶら下げ
「緊張感を出すため」と、平然と言い放つ。

あまつさえ、彼等を身動きができない状態にしておいてから、
持って来させた過去の受賞トロフィーを
目の前で破砕機に放り込み粉々にする始末。

本当にそれは効果的なリハーサルなの?と
観ている側は首を傾げるが、翻弄される二人の男優の姿に
憐憫を感じつつ、思わず笑ってしまうのも事実。


一方の俳優『イバン(オスカー・マルティネス)』は舞台からの叩き上げ。
大学でも演劇の授業を持ち、自身の演技には自信満々。

他方の『フェリックス(アントニオ・バンデラス)』は
典型的なハリウッド俳優。
一種、軽佻浮薄で多くの女優と浮名を流しながら
その人気は知れ渡り。

両者は水と油でそりは合わず、時に騙し合い、
時に迎合し、何とかクランクインを迎えるものの
そのタイミングで、
思わぬ事件は起きる。


『ローラ』は事件の犯人を薄々感づいている。

が、それを暴露すれば撮影は中止となり、
折角の傑作の可能性も封印されることから口を噤む。

作品の為なら、多少のことなら目を瞑り、
加えて他人のアイディアすらもちゃっかり借用する精神性。

ここに我々は利己的な芸術家の「業」を見る。
これで犯人と監督は、フィフティフィフティの関係になるのだが、
この三人の造形には既視感が。

過去の映画で繰り返し描かれた来た監督や俳優を
カリカチュアライズして描いているのだと了解する。


作品はクランクアップし、
会見でも多くの記者を集め
鼻高々な、出資者・監督・俳優の面々。

果たしてヒット共に、受賞をし、
更な名声を得ることができるのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


齢五十にもなろうかという
ペネロペ・クルス』の存在感は素晴らしい。

ホットパンツを履き、
剃毛していない脇を晒し、
怪しげな踊りまで踊って見せる。

とは言え、
直接我々に語り掛ける
最後のシークエンスでのモノローグは深淵。

そこにこそ、映画の本質は凝縮されている。