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描画図鑑「おとぎ話」@佐藤美術館 2024年7月21日(日)

会期は本日が最終日。
それもあってか、館内はそこそこの数の来場者。

 

「ShinPA」の後継とのことで
出展者は『リセイ、髙橋浩規、後藤まどか、平良志季、金丸悠児、
江上秋花、倉田明佳、堤岳彦、万年、サイキン、松本理沙、
たかすぎるな、パクテヒョン、馮聖心、張エイシン山田勇魚』と
安定のクオリティ。

今回はお題を「おとぎ話」とし、各人の解釈で作品が並ぶ。
その数、四十点ほど。

どのようなお話を取り上げるか等の興味は尽きぬものの、
テーマ以外の作品も数点づつ並ぶのは本展の妙味。


『平良志季』の〔万華鏡〕は
和服を着た妙齢の女性が万華鏡を覗く。

彼女の常の作品とは異なり、一見して
おどろおどろしさは微塵も感じない。

が、覗いている先に見えているのは何なのか?と
思わせてしまうのが作家の恐ろしさ。

他作品との並びで、一筋縄では行かぬ印象を持たせるのは、
果たして鑑賞賞の側の勝手な思い込みなのかな。

 

いろいろなモノ これは何でしょう@新宿歴史博物館 2024年7月21日(日)

 

これはユニークな展覧会。

館が所蔵する昔の物品を展示するのは多くあれど、
その中から「珍しい」ものをセレクトし並べている。


例えば「牛乳瓶のふたあけ」は実際に小学校で使われていたもの。
脇には年代別に「知っていた」「知らなかった」と
来場者がシールを貼る紙も置かれ、
世代別の認知の差が一目瞭然。

同じく学校で使われたものであれば
黒板の前に掛けて生徒に見せた大きな算盤とか。


また、「これは何に使われた道具でしょう?」との
三択問題もあり。

設問そのものがヒントも、ある程度年齢を重ねた自分でも
全く見当が付かないものも。


一方で、昔の農具が置かれたコナーには
何故か黒電話がぽつんと置かれる違和感。

かまど や 羽釜 が在るのは理解できるけど。

まぁ、趣旨は「実際に使ってみよう(イベント時)」なので
ありっちゃ~ありかも。


夏休みの自由研究のお助けを目論んだ展示内容と思われるも、
どの世代の人が見ても夫々楽しめる。


会期は~9月8日(日)まで。

 

フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン@TOHOシネマズ日比谷 2024年7月20日(土)

封切り二日目。

席数151の【SCREEN7】はほぼ満席の盛況。

 

 

予告編にふれた時に、
ある程度映画を観ている人なら
カプリコン・1(1977年)〕を想起するだろう。

国家の威信を賭け、火星探査のために打ち上げられた有人宇宙船「カプリコン・1」。
が、失敗を恐れた政府の陰謀で、三人の搭乗員は実際には乗ってはおらず、
地球上に秘密裏に造られたスタジオに連行され、
宇宙中継の芝居をさせられるとのプロット。

ただ、予期せぬ事故が起こったことで目論見は外れ
事態は二転三転。
{SF}映画のようで、実態は{サスペンス}との、手に汗を握る名作。


で、本作は1969年に人類史上初の月着陸をはたした「アポロ11号」を題材に。

往時から、そして今でも
「本当に月に行ったの?」「フェイク画像じゃないの?」との声は多くあり、
それを逆手に取る。

失敗を恐れた政府は、射場の近くに設えた巨大スタジオから
月着陸以降の場面のフェイク画像を中継しようとたくらむ。

とは言え、先作と同様、今回も{SF}の皮を被った{スクリューボール・コメディ}。
女詐欺師と純朴な青年の{ラブロマンス}には
レディ・イヴ(1941年)〕等の名作があるのだが、
そういった古いモチーフをより洗練し盛り込んでいる。


政府側の心配もむべなるかな。

ライトスタッフ(1983年)〕でも描かれたように
宇宙開発は失敗の歴史。

ましてや、戦費が膨大に掛かる「ベトナム戦争」も同時期にあり、
宇宙関連の予算は削減のやり玉に挙げられる。


それを阻止するためにアサインされたのが
PRマーケティングのプロ『ケリー(スカーレット・ヨハンソン)』。

実力をいかんなく発揮し世間の耳目を集めるとともに、
スポンサーを付けることで歳費調達にも成功。

とは言え、政府機関に弱みを握られている彼女は
フェイク画像の中継にも渋々協力する。


『コール(チャニング・テイタム)』は
元々は宇宙飛行士を志望も身体に問題があり、断念。
今は「NASA」の発射責任者としてプロジェクトを牽引する。

二人は出会い、当初は『ケリー』の強引なやり方に反発していた『コール』も
彼女が上げる実績により、次第に意気投合するように。

しかし、フェイク画像中継の計画が露見したことで
一旦こじれた関係も
結局は共同戦線を張るように。


タイトルにもなっているジャズのスタンダードナンバー〔Fly Me To The Moon〕の
録音テープは、アポロ10号・11号にも積み込まれ、
人類が月に持ち込んだ最初の楽曲になったという。

その曲に導かれるように、
アポロ計画も二人の関係も大団円を迎える。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


髪型や髪の色、赤い唇、
更には顔の黒子の位置やサブリナパンツの着用などから
マリリン・モンロー』を念頭に置いたであろう
『ケリー』の造形はコケティッシュ

プレゼンテーション場面のテンポと滑舌の良さ
したたかな仕掛けも特筆もの。

ほぼ出突っ張りで演じる『スカーレット・ヨハンソ』の存在だけでも
本作を観る価値はあり。

 

岡﨑未樹 個展@CREATIVE HUB UENO“es” 2024年7月14日(日)

 

個展のタイトルは”わたし かめ あなた”。


展示は映像作品で
大きめのモニターが一つ、小さめが二つ
壁に掛かっている。

ギャラリー内には数脚の丸椅子も、
このスペースの狭さで映像作品の展示は
やや厳しいかな、と
感じた次第。


出生時の事故で、車椅子の生活だった夫が亡くなったあとの
妻の感情の揺らぎ。

思い出を語り、二人で行った場所を再び訪れる。

想いは変わらぬのに、除籍届を出し、
苗字を昔に戻す顛末。

新たに飼いだした亀が、野菜で形作られた旧姓を
食欲旺盛にわしわしと食べ消していく。
素晴らしい演出。

こうしたイニシエーションを経て、
死者への思いは整理され定着していくのだろう。


会期は~7月28日(日)まで

メイ・ディセンバー ゆれる真実@TOHOシネマズ川崎 2024年7月15日(月)

封切り四日目。

席数147の【SCREEN2】の入りは三割ほど。

 

 

タイトルの「メイ・ディセンバー」は
「親子ほど歳の離れたカップル」を意味する慣用句で
本作は実際に起きた事件に着想を得ていると言う。

36歳の女性教師が夫も子供もありながら、
13歳の生徒と関係を持ち
実刑を受けた獄中で出産。
出所後に二人は結婚し、暮らしている、との。

多くのスキャンダルが渦巻く米国でも、
とりわけセンセーショナルなできごとと思われ、
世間の耳目を相当に集めたことは想像に難くない。


本編では、その事件を基にした映画製作の企画が持ち上がり、
主演予定の人気女優『エリザベス(ナタリー・ポートマン)』が
役や作品を膨らませるため当の家族を訪れ、
インタビューやリサーチを行うという二重構造。

事件のことは社会から早く忘れてもらい、
静かに暮らしたいと願うのが普通の家族の気もするが、
とりわけ妻の『グレイシージュリアン・ムーア)』は、
なぜか率先して彼女に協力する。

そこには、自分たちの正しい姿を知ってもらいたい、との
強い思いがあるよう。

とは言え、家族は一枚岩には非ず。
夫の『ジョー(チャールズ・メルトン)』は妻の意向を尊重するも、
後に生まれた双子を含めた三人の思春期の子供たちの感情は複雑。
映画化の企画すら無くして欲しいと考える者もいる。


『エリザベス』が家族の関係に踏み入る中で、
表面的には幸福そうに見えても、奥底に潜む闇が見えてくる。

暖かく見守っているかのような周辺住民も
実際は困惑の思いがあり、腫れ物を扱うようしている。

近隣に住む離婚した『グレイシー』の嘗ての夫や、その子供たち
(やはり『グレイシー』の実子)も同様。


とりわけ『ジョー』は、基本は婦唱夫随ながら、
抑えていた感情の揺らぎが次第に露わに。

さかのぼること二十数年前、
二人がそのような関係になったそもそもの経緯も含めて
霧の中に溶け込むように模糊とし、
夫婦の間ですら感情のすれ違いが起きてしまう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


やはり「よそ者」が入ることで、
安定して見えていた共同体が揺らぎ始めるとの物語。

とりわけそのかく乱者は、
表向きの優しい物腰や美しい容姿とは裏腹に、
作品や役作りのためであれば、
自身はおろか関係者をも平然と生け贄にできる「トリックスター」。

目の前の役柄に専心し、
残された者たちのことなど歯牙にもかけなくなる。

 

大いなる不在@109シネマズ川崎 2024年7月15日(月)

封切り四日目。

席数118の【シアター5】の入りは四割ほど。

 

 

2020年のNHKドラマ〔ゴールド!〕で
藤竜也』は認知症の妻『冨美代(吉行和子)』の介護を独力で担う夫を演じた。

家の中には注意書きの紙が至る所に貼られ、
妻は次第に夫のことすら記憶から失くしていく。

それと並行し、五十年間ゴールド免許を維持していた
元教師の夫『政継』が信号無視で警官の取り締まりに遭い、
プライドの高い彼は最初反発し、との
高齢者の免許返納問題も描かれる。

こうしてみると本作は、先のテレビドラマと
相当に重なる部分があることがわかるだろう。


数十年前に自分と母を捨てた父が
警察沙汰を起こしたのち介護施設に収容されたとの連絡を受け、
一人息子の『卓(森山未來)』は妻の『夕希真木よう子)』と
久方ぶりに故郷を訪れる。

認知症を患い、譫妄が激しく荒唐無稽を語る父『陽二(藤竜也)』だが
息子のことは理解できるよう。

一人暮らしの家には注意書きの紙が貼られ、
しかしそこには一緒に暮らしていた(そして、『卓』と母親を捨てる要因となった)
義母『直美(原日出子)』の姿は無い。
『陽二』に確認してもその所在は判然とせず、また証言もころころと変わるばかり。

『卓』は残されたメモや『直美』の日記を手掛かりに
二人の生活をたどり始める。

幾つかの過去と現在が組み合わされて描かれ、
次第に我々は父と息子の人となりと
一筋縄ではいかない関係性を理解するように。


また、おどろおどろしいBGMとあわせ、
物語りはここからサスペンスの要素が強く出る。

『直美』の実の息子が語った彼女の現況が虚偽と分かった時点で
それは頂点に達する。

が、タネが明かされてしまえば驚くほどの拍子抜け。
もう一つのテーマである、中年になってから妻子を捨ててまで全うした純愛の
悲しい結末なのが明らかに。


パートナーの片方が認知症になり、
その愛情が消えてしまったのではないかと疑う、
決定的な出来事が起きた時に
疑念を持ったもう一人が
気持ちの整理をどのように付けて行くのか。

他方、捨ててしまった息子を気に掛けてはいながらも
愛情表現が上手くできない無骨な父親の悲しい性にも
自分と重ね諸々感じるところはあるのだが。

随分とふりかぶったタイトルの割には
やや陳腐な二つの愛情物語に収斂してしまうのが
どうにも肩透かし。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


理屈っぽい『陽二』の造形は、
何故にこうした人物に(最低でも)二人の女性が伴侶になろうとするのかも
疑問を抱いてしまう。

実際に周囲に居れば共感の欠片も持てず、
近づきになることすら御免こうむりたい人物像。

もっとも息子の『卓』にしても、
介護施設の職員と会話する冒頭のシーンでの不遜な態度は、
同じ血が流れているのだなぁ、と
後に理解できる脚本の造りではある。

兎角、人間とは複雑な生き物ではある。

 

 

⼯芸総合演習2024@東京藝術大学美術館 陳列館 2024年7月14日(日)

展のタイトルは”素材と技術と私と”。

部屋とYシャツと私〕かいっつ?!

 

 

冗談はさておき、三十名の作品が展示。

{彫⾦、鍛⾦、鋳⾦、漆芸、陶芸、染織、素材造形}と
技法も素材も様々。

一つ「⼯芸科」と括られても、
その表現の多様性には目を見張、
並んでいる作品を観れば
もう楽しくてしょうがない。


一例として、
『高原彩夏』の〔植物〕の
迫真性と繊細さ。


昨年もやはり
”私の工芸”として開催されたことを思い出す。


会期は~7月17日(水)まで。