RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

泣く子はいねぇが@109シネマズ川崎  2020年11月22日(日)

封切り三日目。

席数118の【シアター5】の入りは三割ほど。

f:id:jyn1:20201123074107j:plain

なんて怖い風習なんだろう、「なまはげ」。
2~3歳頃にこんな恐ろしい目に遭えば
絶対にトラウマになるし、知恵が付く迄は
親の言いつけに背こうとは思わないのは間違いなし。

それでも直近では、少子化や担い手の減少、
正月の過ごし方の多様化で廃れる方向性にあるらしい。

本作での、主人公の所業に対する地域住民の反応は
傍目からはかなり過剰に見えるけど、
そういったことが背景にあるのなら、
神経質になるのも判らんでもない。


にしても主人公の妻の『ことね(吉岡里帆)』は
どうしてこうもイラついているのだろう。

娘が生まれたばかりで、夜泣きや授乳で疲れ切っているのか。

それとも病気の父親の加減が悪い、または
家業のスポーツ用品店の経営も思わしくない?

決定的なのは入り婿である『たすく(仲野太賀)』が
何時までも子供っぽく、おまけに酒乱の気があることか。


そんな『たすく』が「なまはげ」の最中にやらかしてしまう。

泥酔し、すっぽんぽんになって町をうろつき、
それが間の悪いことに全国中継で放送される。

満天下にちんちんを晒してしまったわけだが、
それが粗末なモノだったとか、長大だったかは問題とされず、
ただ披露してしまったことで各所からのクレームの嵐。

妻とは離婚する羽目になり、
追われるように東京へと逃げ出す。


別れた妻や娘のことを気に掛けることは一丁前も、
それを支える心構えすらまるっきりできておらず。

いっぱしの男なら、養育費を払うため
そこで粉骨して働くだろうが、それもせず
たた安穏と日々を流すだけ。

とことん煮え切らない性格に
鑑賞者はただひたすらやきもきするばかり。


そんな折り、『ことね』の近況を聞き
矢も楯もたまらず故郷へ向かう深夜バスに乗る。

自身が変わることを周囲に認めさせ、
(元の)妻子と再びよりを戻すため。

しかしその先で待ち受けていたのは、
二年半を過ぎてなお、主人公を寛容しない田舎の空気。


ではあるものの、観ている側からすれば
よくまぁこんなしょ~もない人物を造形したな、と。

欠片も共感できぬほどの情けない行動の数々。

金を稼ごうとする手段すら安直で
いっぱしの大人とはとてもじゃないが思えない。


でも待てよと中途から思い直す。
我々誰しもの中に、多かれ少なかれ『たすく』的な側面は存在する。
本作ではそれを意図的に極大化して見せているだけで。

一歩踏み誤れば同じ隘路に入り込み、
身動きが取れなくなってしまう。

そこから抜け出すにはどうすれば良いか。いや
どんなきっかけが必要か。


本作では最後までそれが明示されることはない。

しかし最後のシークエンスで、数少ない応援者のチカラを借り
変わるための仄かな明かりを見出す主人公が描かれる。

もっともそれも、あまり潔い姿ではないけれど。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


お馴染みのご当地映画にしては珍しく、そこで暮らす人を礼賛し
全肯定する姿勢でないのは逆に好感が持てる。

田舎って、それほど住み良い場所じゃあないよね。