RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

月の満ち欠け@109シネマズ川崎 2022年12月3日(土)

封切り二日目。

席数172の【シアター4】の入りは八割ほど。

 

 

東野圭吾』原作による〔秘密(1999年)〕は印象的な一本だった。

亡くなった妻の意識が、高校生の娘に宿り、
しかし次第に元々の娘の意識が交互に現れるようになり、
やがては・・・・との流れ。

夫であり、また父でもある主人公の
苦悩を見事に描き、
哀切極まる一本に仕上がっていた。

それと比較すると、本作は格段にレベルが下がる。

近しいモチーフでありながら、
お話があまりに一本調子に過ぎるのだ。


自分の子供、或いは親しくしている周囲の人が、
実は過去に亡くなった人間の意識を
しかも赤の他人のそれを宿していると知ったら
普通の人はどう反応するだろうか。

混乱し拒否をするのが実際のところではないか、
本作の主人公のように。

ところがここでは、父親を除くほとんどが
あっさりとその怪異を受け入れてしまう。
まるっきり、受容することが正であるかの如く。

結果として多くの人々の運命が変わり、
それすらも逍遥として許容する。

しかし、転生の目的を知った時に
代価としてはあまりにも重すぎ、
それを応援する周囲こそが最も釈然としない設定に思える。


よくよく考えてみれば、恐ろしいことなのだ。

元々宿していた魂が、七歳の頃に数日間高熱を発生したことにより発露するのか、
若しくはそれを契機に乗っ取られてしまうのか。

後者であれば、嘗て持っていた自我は何処に消えてしまったのか。
前者であっても、元々の個人とは別者に変容しているのでは。

ましてやそのことの為に、
更なる不幸を招いてしまうとの流れはまるっきり許容はできず、
やり場の無い怒りが湧き上がってこそ尋常。


道ならぬ恋が(そこに至るには相応の理由がありも)年月を経て成就する
純愛モノの様に見せる手管は大したもので、
ラストシーンでは上手く処理されてはいるものの、
リアルなら四十歳を超えたおっさんと幼女の抱擁であり、
傍から見ればほぼほぼ犯罪。

ましてやそのために、どれだけの人を不幸に陥れたのか。

嫉妬に狂い、多くに祟った『六条御息所』と、
シチュエーションは異なるも、やっていることは同義。

ましてや、この二人にこの先の未来は存在せず、
〔卒業 (1967年)〕の『ベン』と『エレーン』以上に
不幸せが待ち受けているのは自明。

それをこの上ない成就の様に描くところに
制作者達の欺瞞を感じてしまう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


とは言え、『有村架純』が変わらず美しいので
大抵のことは許容。

それが無ければ、かなりの怪作に成り果てていたのでは。