封切り二日目。
席数212の【SCREEN11】は現状106席程度の案内。
客の入りは更にその半分ほど。
悍ましいもの、美しいもの。
時として記憶は人を苛みまた癒す。
転落への契機にもなり、一方では立ち直りのよすがにも。
囚われ過ぎず、しかし真摯に向き合った時、
人はどう変わって行くのか。
初老の映画監督『サルバドール(アントニオ・バンデラス)』は
世界的な名声を得ながらもしかし
作品を撮らなくなって久しい。
自身の体調不良に加え、最愛の母を無くしたことで
心身ともに疲弊し、半ば隠遁者の日々を過ごしている。
が、外向きには書かない撮らないと表明しつつ、
昔の体験を基にした脚本ともモノローグともつかぬ小品を
営々と書き綴っている。
そんなの彼の元に
過去作品のリバイバル上映に併せたティーチイン登壇への依頼が届く。
主演男優との諍いで不本意な出来と拒否感の強かった一本と
年月を経て改めて向き合ったことで
彼の中に新たなざわめきが蠢動する。
レイティングが「R15+」となっているのは
男性のちんちんが見えるからではなく、
麻薬を摂取するシーンが頻出するからのよう。
しかしこの行為こそ
主人公が過去と向き合うきっかけとなるのだから
表現的には不可欠。
『ペネロペ・クルス』演じる美しい母親との日々、
思いがけず訪れた性への目覚め。
辛い記憶は全て言葉で語られ、美しい想い出が
映像によるカットバックで挟まれる。
主人公の心の機微を繊細に表現した
『アントニオ・バンデラス』の演技も上々。
取り立てての山場がある訳ではないものの、
観終わった後では柔らかな幸福感に包まれる。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
監督自身の体験と思われる映画に対する記憶が語られるのは
〔ニュー・シネマ・パラダイス〕と同様。
先の作品も、主人公の名前は《サルヴァトーレ》だったことを
思い出す。