RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

スーパーノヴァ@TOHOシネマズシャンテ 2021年7月4日(日)

封切り三日目。

席数224の【シャンテ-1】の入りは八割ほど。

普段は女性客や男女のカップルが多い劇場だが、
今日に限っては男性の二人連れを殊の外見かける、
しかも老いも若きも。

作品が客層を呼ぶ典型例だろう。

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スーパーノヴァ超新星とは随分と雄々しいタイトル。

星が消え去る前に放つ、最後の最高の輝きを意図し、
オープニングでもそれは示される。

本作の一方の主人公である『タスカー(スタンリー・トゥッチ)』の境遇を仮託しており、
彼は(おそらく)若年性痴呆症と診断され
薬効もなく、早晩記憶を失い、赤子のようになってしまう。

著名な作家であるとの造形は、
その知性が崩れ去ることの恐怖を
より大きく表現するための仕掛けの一つか。


彼の長年のパートナー『サム(コリン・ファース)』はピアニストとの設定。

しかし、ここ暫く公演会すら開いていないのは、
『タスカー』の症状に献身的に向き合って来たからだろう。


その二人がキャンピングカーを駆って旅に出る。
記憶があやふやなものになってしまう前に、
旧知との交友をしようとの目的。

一種のロードムービー的な流れであり、
ここに映し出されるイギリスの田舎の風景は
ただひたすらに美しい。

それは童心に還ってしまう、
『タスカー』の行く末を表象するよう。


そして喪失についても繰り返し描かれる。

諸々を無くしてしまうのは、
何も彼ら二人に限ったことではない。

訪れる先の『サム』の姉の家でも、
まさにある変化を迎えようとしており、
それにより懐かしいものが消える運命にある。

しかし記憶は残り、思念がある限り思い出は生き続ける。

が、それすらも無くなった時に、
人に残されるものは何なのか。


ゲイのカップルの細やかな情愛が描かれるものの、
男女に置き換えても、何ら不自然さは感じられず。

愛し合う二人が存在するのであれば、
普遍的に起こる情交の物語り。

ラストシーンで『コリン・ファース』自身がピアノで奏でる
エルガー』の〔愛の挨拶〕が
そのことを端的に現わしている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


現代の医療では対応できない不治の病におかされた時に
とる術についても考えさせられる。

自身の尊厳と、パートナーへの負荷を勘案し、
可能性のある選択肢はいかほどのものか、と。