封切り四日目。
席数112の【SCREEN8】の入りは八割ほど。
2011年の〔ツリー・オブ・ライフ〕、
翌年の〔トゥ・ザ・ワンダー〕に比べれば
遙かに分かり易い一本。
本編は、事実を基にした物語り。
第二次大戦のさ中、
独逸と同盟を結ぶオーストリアに住む農夫『フランツ・イェーガーシュテッター』が
良心的兵役拒否をし、それを貫き通す。
もとい、分かり易いとの言い方は
必ずしも正しくはない。
あくまでもストーリーが一本道であることへの表現であり、
特に主人公の心情については、傍目からは相当に測り難い。
観客を迷わせるのは、彼が一度兵役に就いていることで
その際は前線には行かずに復員している。
しかしそれ以降、どのような思いが去来したのか?
敵とはいえ人を殺めることへの疑念、
或いは神なら兎も角、独裁者である『ヒトラー』へ忠誠を誓うことへの拒否感。
それらの複数がないまぜになった反応とは推察されるも、
当時の徴兵忌避は死刑に値する重罪だったことを勘案すると
いかばかりの信念か。
オマケに罪に問われるのは本人だけとしても
残された家族は村八分の憂き目に。
元々が戦時下の体制にも非協力的だったことも相俟って
日々の生活にも影響を及ぼす境遇に追いやられる。
ただ必ずしも排斥する人々だけでないのが仄かな救い。
思いを同じくする村人は、表立ってないものの、多く居るのだ。
ここで我々は2016年の〔沈黙-サイレンス-〕を思い出す。
『遠藤周作』原作、『マーティン・スコセッシ』監督による一本は
棄教せずに殉教する三人と、あっさり転んで生き残る一人を描く。
『フランツ』は当然前者。
そして後者は自分もそうだし、多くの人も同様だろう、
一旦転向しても、嵐が過ぎ去るのを待ち再び戻れば良いよね、
それになんの不都合があるの?命あっての物種。
本作でも、その種の解決策は複数回示される。
が、主人公はそれにどのように対峙したか。
神は試練を与えても、
最後まで沈黙したままでなんの啓示も現わさない。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
本人の悲愴な決意と対比するように、
アルプスの山々の自然は何処までも美しい。
それが主人公の心だと代弁するように
カメラは透徹して映し出す。
〔天国の日々〕での『ネストール・アルメンドロス』のそれに比肩すると言ったら
褒め過ぎだろうか。