RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ノマドランド@TOHOシネマズ日比谷  2021年3月28日(日)

封切り三日目。

席数489の【SCREEN12】の入りは六割ほど。

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劇中で主人公を演じた『フランシス・マクドーマンド』は
制作者としても名を連ね、
本作は彼女の強い思いにより生み出された一本と判る。

ノンフィクションを底本としているとのことだが、
作りそのものは{ロードムービー}よりも{ドキュメンタリー}に近いテイスト。

カメラはぴったりと『ファーン』に寄り添い、
周囲の人々も併せ、現代の遷ろう民の実態を描き出す。

出演者にも、実際の「ノマド」がかなり含まれているよう。
科白も極々自然で演技をしているとも思えぬほど。

彼等彼女等の吐露する言葉は、一種
諦観にも似た響きを持つ。


しかしこういった一群の人々は、
彼の国では過去からも存在した。
それを扱った名作も数多。

移動の手段は時代に応じて変わっており、
RVでとはイマっぽいが。

覚えている限りでは、
1930年代の「浮浪者(ホーボー)」を題材にした〔北国の帝王(1973年)〕、
そして
1910年代の「季節労働者」の姿を描いた〔天国の日々(1978年)〕。

特に後者は『ネストール・アルメンドロス』によるカメラが素晴らしく、
撮影が秀逸な本作と近しい匂いを感じてしまう。


ここに登場する「ノマド」達も、「季節労働者」に近しい部分があるかも。

クリスマスシーズンになれば「Amazon」の配送センターに集い仕事をし、
それが終われば別の職を求めて散り散りに、
また来年と去って行く。

次の年に現れないのは、どこかしらに安住の場所を見つけたのか、
それとも途上で倒れてしまったのか。

後者であれば知己はそれを弔い、前者であれば言祝ぐだろう。

袖触れあうも他生の縁程度の淡いかかわりに見えても、
同じ境遇を生きる者同士、魂の部分では深く繋がっている。


物語りは取り立てての盛り上がりも無く進行。

次第に主人公の過去も明らかになり、
彼女に思いを寄せる人間も現れる。

心も体も安らげる場所の提供をオファーされた時に
『ファーン』はどのような判断を下すのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


RVで広い国中を移動し、
時に金に困り、時にカラダの不調を得、
厳しい暮らしと引き換えに、精神は自由を得る。

傍目には悲惨な環境も、
それだけにとどまらぬサムシングがある。

やむない選択肢のケースもあれば
自身から選んで身を置く場合もあるだろう。