封切り三日目。
席数489の【SCREEN12】の入りは六割ほど。
劇中で主人公を演じた『フランシス・マクドーマンド』は
制作者としても名を連ね、
本作は彼女の強い思いにより生み出された一本と判る。
ノンフィクションを底本としているとのことだが、
作りそのものは{ロードムービー}よりも{ドキュメンタリー}に近いテイスト。
カメラはぴったりと『ファーン』に寄り添い、
周囲の人々も併せ、現代の遷ろう民の実態を描き出す。
出演者にも、実際の「ノマド」がかなり含まれているよう。
科白も極々自然で演技をしているとも思えぬほど。
彼等彼女等の吐露する言葉は、一種
諦観にも似た響きを持つ。
しかしこういった一群の人々は、
彼の国では過去からも存在した。
それを扱った名作も数多。
移動の手段は時代に応じて変わっており、
RVでとはイマっぽいが。
覚えている限りでは、
1930年代の「浮浪者(ホーボー)」を題材にした〔北国の帝王(1973年)〕、
そして
1910年代の「季節労働者」の姿を描いた〔天国の日々(1978年)〕。
特に後者は『ネストール・アルメンドロス』によるカメラが素晴らしく、
撮影が秀逸な本作と近しい匂いを感じてしまう。
ここに登場する「ノマド」達も、「季節労働者」に近しい部分があるかも。
クリスマスシーズンになれば「Amazon」の配送センターに集い仕事をし、
それが終われば別の職を求めて散り散りに、
また来年と去って行く。
次の年に現れないのは、どこかしらに安住の場所を見つけたのか、
それとも途上で倒れてしまったのか。
後者であれば知己はそれを弔い、前者であれば言祝ぐだろう。
袖触れあうも他生の縁程度の淡いかかわりに見えても、
同じ境遇を生きる者同士、魂の部分では深く繋がっている。
物語りは取り立てての盛り上がりも無く進行。
次第に主人公の過去も明らかになり、
彼女に思いを寄せる人間も現れる。
心も体も安らげる場所の提供をオファーされた時に
『ファーン』はどのような判断を下すのか。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
RVで広い国中を移動し、
時に金に困り、時にカラダの不調を得、
厳しい暮らしと引き換えに、精神は自由を得る。
傍目には悲惨な環境も、
それだけにとどまらぬサムシングがある。
やむない選択肢のケースもあれば
自身から選んで身を置く場合もあるだろう。