RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

フェアウェル@TOHOシネマズ川崎  2020年10月11日(日)

封切り九日目。

席数542の【SCREEN5】は一席置きの案内だと実質271。
客の入りは、その二割りまではない感じ。

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末期の肺癌の為、余命幾ばくもないと診断された中国に住む老母に
日本とアメリカに住む兄弟は相談し告知をしないことを決める。

しかし長男の息子が中国で結婚式を挙げるのを口実に
親族が集まる思い出を作れる場の設定を目論む。

一方、ニューヨークに住む孫の『ビリー』は
感情が顔に出易いからとの理由で留守を言いつかる。

が、人一倍祖母に対して思い入れの強い彼女は
言いつけを破り、長春へと向かう。

案の定、顔を合わせた途端に挙動が不審になる『ビリー』。
周囲の機転で事なきを得たものの、結婚式を終え帰国するまで
秘密を守り通せることができるのか、が一つのサスペンス。


長年暮らしたアメリカであれば、
間違いなく告知するであろうし、逆にしないと罪になるくらい。

西洋式の考え方が沁みついている『ビリー』と
考え方はモダナイズされていても、最後の最後までしないと決めた
東洋的な考えが根底にある親以上の世代との相克。

直近の日本ではだいぶ変わって来たようだけど、
ほんの十年ほど前まではしない選択比率はかなり高かったかも。

本作はそういった東洋と西洋の
根底にある考え方のぶつかりをテーマとしてはいるものの
敢えて強く打ち出すことはせず、
結婚式にありがちな幾つかの騒動に絡めて、
幾分ソフトに表現している。


なので激しいドタバタが起きるわけではなく、
哄笑するシーンが続出するわけでもない。

主人公の煩悶も最初は強くあるものの、
次第に現地の思想に順応し軟化して行く。

正直、やや物足りない表現が続出する。


それよりも感じ入ったのは老いて尚、
子供や孫の世代を慈しもうとする心根の有り難さ。

自身の体調の悪さは自覚しており、
度重なる検査や投薬に不信感を持ちはするものの、
それを差し置いても子孫の繁栄を第一に考える。

洋の東西の違いはあっても、これだけは共通の思いではないか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


同時に、一種のヤングアダルト状態にある主人公の
成長譚とも捉える。

見得を切って家を出はしたものの、何をやってもうまくいかず、
希望する職にも就けず、日々の糧にも困窮する主人公が
一連の行事を終え帰国した後に見せる晴れやかな表情はどうだろう。

まさにイニシエーションを経たと表現できるくらい。