封切り十日目。
席数60の【シアター3】の入りは八割ほど。
母親の三回忌に久々に島に帰省をした『橙花(松本穂香)』。
出迎えた父親『青治(板尾創路)』はなんと母親の服を着て現れ
あまつさえ「父さんは、母さんになる」と言い放つ。
驚愕し、混乱し、憤る『橙花』。まぁ常識的に考えればごく当たり前の反応。
弟やその嫁も、父の姿を当然の様に受け止めている。
ましてや父親は島の高校の校長。学校にもスカートのまま出かけるのに
誰も異を唱えないことも、彼女の怒りの炎に油を注ぐ。
『松本穂香』は最近注目している女優さん。
見た目に多少難はありつつ、
纏う空気や、演技の筋の良さはなかなかのもの。
加えて同年代の『飯豊まりえ』が、もはや女子高生役が辛くなっているのに対し
『松本』の方は十二分に、いや逆に、それくらいの年代の役の方がピタリと嵌る。
本作のように、都会での仕事にも結婚にも疲れてしまった、
年齢的にも背伸びした役柄にはかなりの違和感。
良くも悪くももっと一本気な天真さが前面に出る人物を演じた方が
まだまだ観ていても楽しい。
そうしたズレが脚本の隅々にも顔を出す。
『青治』は子連れの居候『和生(浜野謙太)』と結婚し家族になると言い出す。
そのために『和生』と養子縁組をするとまで。
が、遺産を相続させたいとの経済的な意図や
医療行為同意が必要無ければ、別に事実婚でも良いのだろうし。
結婚式を挙げ、色打掛に角隠しにも絶対の要件じゃないしね。
ましてや彼等はどうもゲイのカップルでないらしい。
一方で、化粧好きの高校生男子も現れたりして、
物語はやや想定外の方向へと広がっていく。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
終幕では、家族って良いものだな、との大団円におさまりつつも、
LGBTを肯定するハナシなのか、家族の多様性を謳うハナシなのか、
『橙花』の人間的な成長のハナシなのか、最後までもやっとする。
男性二人の結婚にしても、
妻を亡くして寂しい初老の男と、くいっぱぐれている中年の男の
打算に満ちたもたれ合いで
純粋さが垣間見えない辛さがある。