RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

私にふさわしいホテル@TOHOシネマズ錦糸町 オリナス 2024年12月28日(土)

封切り二日目。

席数112の【SCREEN7】の入りは七割ほど。

 

 

ここ十年の映画作品では
主演しか張っていない『のん』。

何れもがエキセントリックな役柄で
周囲を縦横無尽に振り回す。

本作でもその魅力をいかんなく発揮。
トリックスターとして八面六臂の活躍を見せる。


今回の彼女の役柄は売れない作家『中島加代子』。

デビュー作がいきなり新人賞に選ばれはしたものの、
大御所作家『東十条(滝藤賢一)』の酷評に遭い、
以降は新作も発表できず、
単行本も出せずにいる。

が、従容としてその境遇に甘んじているわけではない。
大学の先輩の編集者『遠藤(田中圭)』を味方に引き込み、
『東十条』への復讐の機会を虎視眈々と狙いつつ、
自身の作家としてのステップアップも画策する。


その背景には、報復の狙いは勿論、
文壇と言う得体の知れぬ集合体への懐疑、
女性蔑視の世間へのアンチテーゼや
自分の出自へのルサンチマンがある。

出自が特徴的に顕われるのが食事の場面。
箸への指の添え方は正しいものの、
極端に下を持ち、
皿に向かい猫背になり、
犬喰いのようにがつがつと。
作法の教育を受けていないのが一瞬で判る、
良く練られた演出。


周囲を自在に制御する主人公だが、
けして嫌な女ではない。

寧ろストレートな言動が好感を以って受け入れられるし、
時として敵対する大御所作家とも共闘。

とりわけ女性たちは
進んで彼女に加担し
それを楽しんでいるようにさえ見える。


『加代子』が次はどのような手段で
『遠藤』に対しての策略を練るのかが見ものの
一種{コンゲーム}にも似た一本。

が、騙しのテクニックは陰湿に陥らず、
カラッと楽しくさえあり、
場内には絶え間なく哄笑が巻き起こる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


ノスタルジーを感じさせる三つの仕掛けが印象的。

一つは1984年との始まりの年次。
自分にとっても、記憶に残る年だし、
計算すれば主人公は同年代になる。

もう一つは、昭和を思わせる
ややセピアがかった独特の色調。
昔の映画は間違いなくこうした色味だった。

最後に、もう一つの主役「山の上ホテル」。
本年2月に休館し、
投宿の経験はないものの、
飲食店の利用経験はあり。
昭和を感じさせるクラシカルなアールデコの建物が懐かしい。

これらが相俟って、
本作を一層記憶に残る一本に仕立てている。