封切り二日目。
席数246の【シアター1】の入りは五割ほど。
昨年映画化され話題になった〔罪の声〕原作者の『塩田武士』が
『大泉洋』を主人公に当て書きした小説の映像化。
なるほど雑誌の編集長が役どころの彼の随分と飄々とした空気は、
まんま自身を体現しているようにも見える。
頼りなさげな風貌なのに、時としてリーダーシップを発揮したリ、
策士のようでもありつつ抜け落ちあり、
恩顧を平気で裏切るかと思えば小さなしがらみに囚われたり
背反さが際立つ『速水』の造形。
しかし行動指針は明確。
自分の面白いことをやる、
やるからには何かを変える、とのスタンス。
編集者よりも稀代のプロデユーサーとしての貌。
一つ紙媒体や、一企業に留まらず、社会を変革したいとの思いも
ありやなしや。
が、それもどこまでが本音なのか。
鰻の様に掴みどころがないとは
まさに彼の為にある様な言葉。
その対極として、新人編集者の『高野恵(松岡茉優)』が存在。
町の本屋の娘である出自もあり、根っからの活字馬鹿。
その想い入れの強さは、小説の聖地巡礼を繰り返すほど。
作家とタッグを組み、より良い作品に昇華させたいとの
熱い気迫が奇跡を生む。
一方でやり玉に挙がるのは、文壇の閉じた世界や出版界の因習。
忖度が渦巻き、変えさせないための力学の数々がそこかしこに蔓延る。
意気に燃えていた新入社員も次第にそれらを目の当たりに摩耗する。
または社内の権力闘争もしかり。
一族による経営や情実の人事は旧弊に過ぎ、
出る杭は打たれる始末。
例によって予告編は{コンゲーム}の側面を見せてはいるけれど、
全体の流れはミステリーや企業の内幕モノに近い印象。
騙し騙され、出し抜き出し抜かれの繰り返しは
勧善懲悪とは違った、やや複雑さを孕む。
くるくると猫の目のように変わる展開は、
先読みができない上に、斬新さにも満ちている。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
しかし本作の芯にしっかりと据えられているのは
溢れるほどの活字愛。
デジタル全盛の昨今でも
まだまだ紙文化は死んでいないぜ、との
力強いエール。
それは最後のシークエンスで顕著に現れ。
コンテンツに重要な三要素、
「新規性」「独自性」「継続性」を満たしていれば
伝える手段は旧来の媒体でも、十分にそのチカラがある。
「森岡書店銀座店」が体現している売り方の仕掛けがその好例。
本編の先のシーンは、同店にインスパイアされたんじゃ、と
思わぬでもない。