封切り二日目。
席数72の【シアター10】は、
神奈川県も「緊急事態宣言」が発出されたことにより
一席空けての案内でほぼほぼ40席。
その九割方が埋まっている。
相変わらず酷い邦題だなと思う。
劇中のどこにも〔明日に向かって撃て!〕を思わせるシーンは
欠片も無いし。
原題の〔La Odisea de los Giles〕は検索をすると
〔まぬけたちの一連の長い冒険〕との意らしいけど、
翻案するにあたって、もうちょっと捻りようもあろうというもの。
舞台は2000年代初頭のアルゼンチン。
国内の経済不安から、預金を自国通貨のペソからドルに替える動きが加速。
政府はその対策として預金封鎖を行うのだが、
それを事前に知っていた政権に近い人々が一般市民を騙し甘い汁を吸う。
その余波を受けた庶民が結束し一矢報いる、が
ことの次第が大まかなプロット。
とはいえこの構図は、明治維新後の藩閥政治や
戦後の混乱期の我が国にも、厳然と存在したハズ。
それを暴き意趣返しする物語りは
あまり記憶にはないが。
それとも禁忌に触れる自主規制でも有るのかな。
さはさておき、
過去からも繰り返されて来た
利権と疎外
金と情
ハイテクとローテク
の、二項比較がここでもモチーフとされ、
しかし最後には持たぬ側が快哉を叫ぶのは小気味良い。
とりわけ、最新のシステムを集団の知恵で手玉に取る一連のシークエンスは
観ていて「もっとやれ~!」と囃し立てたくなって来る。
複数の喪失感を怒りに昇華させ、しかし
誰が行ったかの痕跡を残さず奪還を行うため、
知恵を絞り団結をする。
中にはかなりボケた同志が居るのもお約束。
本作ではとりわけその比率が高いことも
(タイトルにも明示されているけれど)
どきどき感を増すための重要な要素。
そして中には同床異夢な者の存在もありつつ
(最後に漸く判るのだが)おくびにも出さず流してしまう脚本も冴えている。
用途が不明な機器もあからさまに提示し、後々に
おおそうだったのかと膝を叩かせる仕掛けも素晴らしい。
起伏の組まれ方が上々で、
最後まで手に汗握りながら画面に入り込める。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
それにしても
物語りの時点で既に死去から三十年を経ているはずなのに、
劇中でも複数回言及される『フアン・ペロン』の存在感。
もっとも彼単独よりも、
『エビータ』の神話が、人々の記憶には大きいのかもしれないが。