封切り三日目。
席数290の【CINE4】の入りは三割ほど。
「十で神童、十五で才子、二十過ぎればただの人」とは良く言われることだけど
この男の場合はまるっきり真逆、歳を重ねるに連れその技巧は際立ち、
本人をして
「己六才より物の形状を写の癖ありて
半百の此より数々画図を顕すといえども
七十年前画く所は実に取るに足ものなし
七十三才にして稍 禽獣虫魚の骨格 草木の出生を悟し得たり
故に八十六才にしては益々進み
九十才にして猶其奥意を極め
一百歳にして正に神妙ならん与欠
百有十歳にしては一点一格にして生るがごとくならん」
と書かせるほど。
日本を代表する絵師であり
奇行のエピソードも多く
映像化には向いていると思うのに
映画作品は意外に少なくて
『新藤兼人』による〔北斎漫画〕くらいしか思い出せず。
取り上げるべきことが多すぎて、脚本化が却って大変なのかなと思いつつ、
想像の翼を十二分い広げられる余地は多くあるのだろう。
とはいえ本作の様に
官憲の横暴への憤怒が創作の源泉になる風の描写は
首を傾げる。
〔怒涛図〕や〔神奈川沖浪裏〕を含む三つの「波」の絵が
メルクマークになったとの主張も牽強付会にしか思えず。
全体的に造りも不親切で
登場する人物達は
人によっては名前を明示されることもなく。
個人的な整理も含め一覧にしてみたが、
『葛飾北斎』 1760-1849
『蔦屋重三郎』1750-1797
『喜多川歌麿』1753-1806
『東洲斎写楽』1763-1820
『曲亭馬琴』 1767-1848
『柳亭種彦』 1783-1842
多くは近しい年齢であることも判る。
実際の歴史も併せてみると、
小布施は二度に渡って訪れ
一度目は1842年で確かに『柳亭種彦』が享年六十歳で亡くなった年。
二度目は1844年から4年間も滞在しており
〔怒涛図〕はこの時に描かれているハズ。
何かと言えば、
脚色が過ぎれば興を削がれるとの代表のような一本との評価。
ただそういった不満を凌駕してお釣りが来るのが
「画狂」らしさを存分に味あわせてくれる
『田中泯』の身体表現を含めた演技の素晴らしさ。
特に「北斎ブルー」得た時の歓喜のシーンは
憑依したかと思えるほどの渾身の出来。
他方の『柳楽優弥』は、最近では
どの役を演っても類似のテイストで
〔今日から俺は!!劇場版〕での『柳鋭次』と区別が付きません。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
ハナシは変わって、
本作にも登場する娘の『お栄/応為』は
生没年を含め詳細がほぼほぼ不明にもかかわらず
『杉浦日向子』の〔百日紅〕を原作にしたアニメ〔百日紅~Miss HOKUSAI~〕があり、
おきゃんな小気味の良い性格が『杏』の声とも相俟って、
なかなかの出来であったと記憶。
脚色とはこうあって欲しいもの。