RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

夜を越える旅@チネチッタ川崎 2022年10月23日(日)

封切り三日目。

席数138の【CINE3】の入りは三割ほど。

 

 

小泉八雲』の〔骨董〕に収められた怪談の中の
〔茶碗の中〕と題された一編。

特徴的なのはその終わり方で、
突然途切れたように、ぽ~んと投げ出された終幕を迎え、
その後については、読む者の想像に委ねられ。

本作には、それと似た印象を持つ。

たまさか〔茶碗の中〕に登場する
『中川佐渡守』は豊後=大分の藩主なのも興味深い。

この映画の舞台も、佐賀なのだが。


『春利(高橋佳成)』は、院卒にもかかわらず
未だに漫画家への夢を捨てきれず、
各賞に応募はするも、入選さえままならぬ日々。

アルバイトはしているものの、ほぼほぼイマの恋人に喰わせて貰っている
ヒモ状態。

そんな彼が
学生時代の友人たちと一泊二日の小旅行に出かけた先で遭遇する不可思議な体験。


最初はほのぼのとした仲間内の他愛ない交流が描かれるが、
中途から物語は急転、まさしく骨法である「序破急」を地で行く展開。

しかも夢なのか現なのか、或いは
主人公の妄想なのかそれとも周囲の人間がよってたかって彼を陥れようとしているのか
どうとでも取れてしまう曖昧なエピソードがただひたすらに積み重ねられ。


とは言え、不条理感に満ちながらも、脚本自体は相当に綿密な構成。

例えば、冒頭に近い、二人で他の同行者を待つシーンでの会話。
ここでは、誰か一人が仕事の都合で来られなくなったことが口に上り、
なので、中途から『小夜(中村祐美子)』が「遅れて」参加しても、
鑑賞者は不審には思えない。

しかし、ここが監督の創り方の巧みさだが、
幾つかのカットを観れば、実は彼女が既にこの世の者ではなく、
しかも死因についても暗喩していることが分かって来る。

思わず「上手いなぁ」と独り言ち。

もっとも、この場面から既に矛盾をはらんだ状況に陥っており、
彼女の死は周知で、ならば他の五人の反応は不自然。
にもかかわらず、お話が進行していくのは、何かウラがあるハズ、と。

不条理が画面全体を支配し、主人公達だけでなく
観る側も監督が仕掛ける迷宮に嵌ってしまう。


とは言え、八十分尺のかなりの小品ながら、どうとでも取れる場面があまりに多すぎて、
幾つものシーンで釈然とせぬ思いが溢れ出す。

マルチエンディングのように解釈可能な幅が広すぎて。

ある意味、行き詰った漫画家志望ニートの夢落ち(それも冒頭から)
でもありなわけで・・・・。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


お話の根底に
恋人を失ってしまった喪失感が潜んでいるのは間違いのないところ。

そして、先んじて逝ってしまった『小夜』(だからタイトルが「夜」なのだと誰何し、
このエンディングは幸あるものと思いたい)を演じた
中村祐美子』は短い登場時間ながら、残した印象は強烈。