封切り三日目。
席数244の【CINE6】の入りは七割ほど。
劇中何度か言及される〔アラバマ物語〕は
『グレゴリー・ペック』主演で1962年に映画化されている。
原作は1930年代のアメリカ南部が舞台。
未だ酷く差別されている黒人が無実の罪で起訴され
それを救おうとする正義感溢れる白人弁護士の奮闘の物語り。
が、本作でもまるっきり同様なことが繰り返され、
六十年近く経ってもこれかよ、と
或いは今からほんの三十年前でも、と
アメリカが抱える深い闇に呆れつつ、
同地の住人達がその物語りの舞台となったことを誇りに思う態度を
皮相な視線で観たりする。
もっとも、あらぬ嫌疑を掛けられるのは彼の地に限ったわけではなく、
本邦でもまま耳にするオハナシ。
NHKの〔逆転人生〕は
コンビニ強盗として逮捕された若者がまるっきりの無罪であった一連の出来事を
放送している。
激しく恫喝される長時間に渡る取り調べや長期の勾留。
しかも証拠をきちんと吟味すれば真犯人は別にいることに
容易に辿り着きそうな先入観・結論ありきの捜査。
有罪率99%と言われる日本の司法制度だって
十分にその危うさを孕んでいる。
この種の免罪事件が起きる度に思うのは、
別に居る真犯人はのうのうと世間で暮らしていることの事実。
再び同様の犯罪をしないとの保証は無く、
仮に事件が起きてしまった時に
関係者はどのような思いを持つのだろうか。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
そういったことを全て含めて本作が描き出す恐ろしさは
輪を掛けている。
無実の黒人を罪に落すために嫌疑自体をでっち上げ証拠は捏造、
被疑者に有利な証言は取り上げず
審理すらまともにしない組織ぐるみの姿勢。
主人公の弁護士への態度も、職業に対するリスペクトはさらさらなく
肌の色が黒いとの外見だけで、ゆえない差別を浴びせる。
コロニーの安寧の為、スケープゴートをより弱い者に求め
同調を乱す者は力づくで排除。
それは間違っていると薄々感づいても、
正すのは困難な暗黙の圧力。
〔グリーンブック〕でも描かれた「南部だから」だけでは済まされない
根強い偏見や思い込みがそこにはある。