封切り三週目に突入。
席数72の【シアター10】は満員。
夫の方が一回り以上年配の歳の差婚夫婦。
ましてや夫は五十路を迎えようとしている。
子供はもたないつもりでいたのに、妻が突然欲しいと言い出す。
そこから始まる妊活の顛末。
最終的に赤ちゃんを授かるのは「ご懐妊ですよ」とのタイトルから明らかも、
一部始終のてんやわんやを優しい目線で描いた佳作。
寡聞にして知らなかったが、主人公の『ヒキタクニオ(松重豊)』は実在の作家さんだそうで
本作は自身の実体験を基にした所謂私小説。
全体してはかなりコメディタッチで綴られてはいるけれど
ホントのところはもっと大変だったんじゃ?と思わぬでもない。
不妊治療と言えば、女性の視点から描かれるケースが多いものの、ここでは
男性からの語り口となっているところが斬新。
禁酒をしたり運動をしたり、挙句はサウナまで禁止したりと
ちょっとドタバタとした方向性で笑いを誘う。
自身のことを「駄目金玉」と卑下し、
精子の運動量を増やすためのそれら一連の行いは、
笑いの中に涙ぐましくもある。
ただ、この男性視点がいざなってしまう違和感も一方であって、
第一段階である「人工授精」にしたって「排卵誘発剤」を使ったり
それ以外の外科療法も併用されるだろうし、
第二段階の「体外受精/顕微授精」ともなれば女性の体への負担も相当なものだろう。
その点が余りにもさらっと流されていることが唯一の残念点。
もっとも本編を見終わると、不妊治療のあれこれ、
最早自身には不要となった知識が自ずとついちゃう余録もあったりして(笑)。
なかなか妊娠できないことに加え、
一部の周囲の不理解などの試練が夫婦を襲う。
しかし妊活の過程で、二人の絆はより強まり、
愛情が再認識される流れは、観ていて清々しささえ感じる。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
子供が出来やすくなるとの妄言を信じて
桃の缶詰を爆食いする主人公の姿に『井之頭五郎』の片鱗を見るのは自分だけではないだろう。
そして普段であればあまり評価しない『北川景子』も
本作に関しては妙にピタリと嵌っている。