封切り十日目。
席数150の【SCREEN4】の入りは五割ほど。
ベイサイドのタワマンの高層階に住み、不自由のない暮らしをおくる夫婦。
が、夫の無精子症のため、自身等の子供を持つことができず、
特別養子縁組で授かった男児を『朝斗』と名付け愛しむ。
幼稚園の年長ともなった息子には、
その年齢の子供にありがちな諍い等も起きるけれど、
過ぎてしまえば何れも瑣事、笑い話しとなって後々の良い想い出になる程度。
そんなの家族の元に、一本の電話から一人の少女がおとなう。
『朝斗』は自分が生んだ子供なので返してくれ、それが叶わないのなら金をくれ、と。
訪れて来たのは本当に実の母親なのか、そして真の目的は何なのかが本作のサスペンス。
しかしそれは構成要素の一端にしか過ぎず。
前半部では、絵に描いた様に幸せなイマイマの家庭の情景と、
過去の不妊治療の顛末、養子を受け入れるまでが描かれる。
時としてさざ波も立つ日々ではあるものの、
後々に押し寄せる大波に比べれば笑って済ませられる程度のもの。
後半部では一転、子供を生んだ少女の側の視線に切り替わる。
過去に同内容を扱った作品でも、不妊治療の大変さや、
なかなか懐かない養子に苦心惨澹するモチーフは多かったけれど、
養子に出す側の苦悩を扱ったケースはなかったかも。
ましては当人は年端もいかない十四歳の少女。
家族は「それがあなたのため」と言うけれど、どこまで信じて良いのか。
生んで育てようにも賛意は得られず、葛藤と怨嗟だけが渦巻き
次第に彼女の心を蝕んでいく。
『河瀨直美』作品としては
〔あん〕と同程度の評価と思う。
社会性は共通も〔あん〕には有ったメッセージ性はやや弱め。
それでも作品全体の価値を損ねることはなく。
もともと同監督はオリジナルよりも
原作ありの方が余程良い作品を撮れると認識。
「カンヌ」で「カメラ・ドール」を取った作品や
「グランプリ」を得た作品などは正直、何処がいいのかさっぱり分からず。
審査員の方々の見方に首を傾げまくったもの。
それが先の一本を観、更には〔光〕にふれることで
その実力のほどを思い知る。
特に主演は言うまでもなく、端役までもが劇中の人物そのものになってしまう演出の凄まじさ。
本作でもそれは如何なく発揮され、まるでドキュメンタリーを観ているほどの臨場感。
もっとも、カメラやBGMもそれをサポートしており、且つ
映像化することで観客をミスリードする技も十二分に発揮しているのだが。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
本編の原作は未読も『辻村深月』の小説は何冊かを読了。
ここでも作者お得意の家族関係や思春期の心の揺らぎを繊細に描き、且つ
ミステリーの要素も取り込んで手応えのある作品に昇華している。
そして、けして不幸ではないエンディングが待つのも同様に。