RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ@TOHOシネマズ日本橋 2024年10月12日(土)

封切り二日目。

席数226の【SCREEN5】の入りは五割ほど。

 

 

タイトルの「Folie à Deux(フォリ・ア・ドゥ)」は
単純に訳せば「二人狂い」だが、
「感応精神病。精神障害の妄想性障害の一つ」とも書かれている。


五人を殺害(実際は自身の母親を含め六人)し
精神病棟の監獄刑務所に収監された『アーサー(ホアキン・フェニックス)』。

裁判を待つ身も、その体は骨が浮き出るほどに瘦せ細り、
周囲への反応も鈍く、生ける屍のよう。

しかし囚人たちの中には、『ジョーカー』を熱狂的に支持する者は居る。

また、世評も、彼の行為は幼い頃の虐待が影響している、と
同情的に見る向きもある。


『リー・クイン(レディー・ガガ)』は『ジョーカー』の強烈な崇拝者。

策を弄し、彼に会ったことで、二人の間に恋愛感情は芽生え
『アーサー』は生気を取り戻す。

妄想ではない、生身の女性との初めてのふれ合い。

彼女は彼を自身が望む形の『ジョーカー』として蘇生しようとし、
また『アーサー』もそれに応える。


法廷での場面は象徴的。再びピエロのメイクをして現れた『アーサー』は
うってかわって傲岸不遜に。

傍聴席の『リー』もそれを見てほくそ笑む。

相互依存の関係は次第にエスカレーション。
二人だけの世界に酔いしれる。

これがタイトルの指し示すところだろう。


しかし裁判が進み、多くの証人の声を聴くに連れ、
彼の心は揺らぎ出し、『ジョーカー』の仮面は剝がれて行く。

それを目の当たりにした彼女は『アーサー』を拒み、
悲しい結末へと繋がる。


前作は、主人公の造形を含め〔キング・オブ・コメディ (1982年)〕をなぞるように描かれた。

ただ最後に、「スタンダップコメディアン」としての名声が、
『ジョーカー』として名を馳せることにすり替わる。

当初は誇大妄想狂だった『ルパート(ロバート・デ・ニーロ)』が
「キング・オブ・コメディ」の名声を得(妄想かもしれぬが)、
こちらの世界では大物芸人の『マレー』として殺害されるのは寓意に満ちている。

『マレー』の決め台詞「That's life!」が、
本作では「That's Entertainment!」に置き換わる。

劇中に流れる〔バンド・ワゴン(1953年)〕で使われた一曲も、
この歌詞が本作の至る所に偏在する。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


賛否両論の評価になりそうも、
劇中の裁判に対する両極の世評が
まさに現実世界でも体現されるよう。


「ミュージカルなど観たくは無かった」との声も上がるだろうが、
本作は{ミュージカル}には非ず。

それらの場面は全て二人の、とりわけ『リー』の妄想であり、
やはりタイトルに帰結する。


ラストシーンに集約される
全ての夢が破れた悲しい男のドラマが実態なのだ。