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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ポトフ 美食家と料理人@チネチッタ川崎 2023年12月16日(土)

封切り二日目。

席数129の【CINE2】の入りは七割ほど。

 

 

舞台は19世紀末のフランスのシャトー。
主人の『ドダン(ブノワ・マジメル)』は名だたる美食家。

それも単に食べるだけではなく、自身でレシピも考案、
下ごしらえや調理にも参加。

そんな彼を支えるのは、天才料理人の『ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)』。
屋敷に住み込み、彼とその美食仲間のために腕をふるう。

二人は美食を仲立ちとした良きパートナーに加えて恋人同士。
しかし、二十年に渡る長い付き合いにもかかわらず『ウージェニー』は
『ドダン』の求婚を受け入れようとはしない。


冒頭三十分の厨房内でのシークエンスが兎に角、圧巻。
声掛けは最小限、なのに絶妙のチームワークで
流れるように料理が次々と出来上がる。
以心伝心とはこのこと。

スクリーンを通して観ているだけなのに、
香りが漂い、食感までもが伝わって来そう。
まさに垂涎。

それにしても、とりわけ西洋料理は体力勝負と
改めて痛感させられる。
知り合いの料理店のシェフが「身体がきつくなった」と、
引退を決意したのも良く判る。


『ドダン』の名声は「ガストロノミー」として国内に鳴り響き、
ある日「ユーラシア皇太子」から晩餐会への招待を受け
美食仲間とともに参加。

しかし、彼はその内容に満足をせず
(ここでの宮廷付きの料理人を
本作の料理監修もしている『ピエール・ガニェール』が
演じているのは笑える)、
逆に皇太子を自身のシャトーに招き、
田舎料理の「ポトフ」をメインにもてなそうとする。

が、ここで悲劇は起きる。
示唆されてはいたものの、あまりに唐突に。


『ドダン』の美食家としての名声は、
単に美味しいものを食べる機会が多く、且つ健啖なことが理由ではない。

なぜに美味しいか、美味しくないのかを
科学的に、時として芸術的に
他の人が聞いても理解できるよう言語化できるから。

ため、料理を音楽や美術の域に高めたと評され、
多くからの敬愛も受ける。


失意の『ドダン』を救うのは
一つには美食仲間の友情、
そしてもう一つは、尽きぬ食への執念。

傍目には、それで悲しみが癒えるの?とは思えるが、
ラストシーンは原題にもある「情熱」に収斂させる流れは鮮やか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


自分が観た『トラン・アン・ユン』の監督作は
(勿論、脚本も彼自身だが)、
熱さを内に秘めつつ、重要な場面の描写はあくまでも静謐。

それは本作でもきっちり踏襲されている。