封切り四日目。
席数118の【シアター5】の入りは四割ほど。
2020年のNHKドラマ〔ゴールド!〕で
『藤竜也』は認知症の妻『冨美代(吉行和子)』の介護を独力で担う夫を演じた。
家の中には注意書きの紙が至る所に貼られ、
妻は次第に夫のことすら記憶から失くしていく。
それと並行し、五十年間ゴールド免許を維持していた
元教師の夫『政継』が信号無視で警官の取り締まりに遭い、
プライドの高い彼は最初反発し、との
高齢者の免許返納問題も描かれる。
こうしてみると本作は、先のテレビドラマと
相当に重なる部分があることがわかるだろう。
数十年前に自分と母を捨てた父が
警察沙汰を起こしたのち介護施設に収容されたとの連絡を受け、
一人息子の『卓(森山未來)』は妻の『夕希(真木よう子)』と
久方ぶりに故郷を訪れる。
認知症を患い、譫妄が激しく荒唐無稽を語る父『陽二(藤竜也)』だが
息子のことは理解できるよう。
一人暮らしの家には注意書きの紙が貼られ、
しかしそこには一緒に暮らしていた(そして、『卓』と母親を捨てる要因となった)
義母『直美(原日出子)』の姿は無い。
『陽二』に確認してもその所在は判然とせず、また証言もころころと変わるばかり。
『卓』は残されたメモや『直美』の日記を手掛かりに
二人の生活をたどり始める。
幾つかの過去と現在が組み合わされて描かれ、
次第に我々は父と息子の人となりと
一筋縄ではいかない関係性を理解するように。
また、おどろおどろしいBGMとあわせ、
物語りはここからサスペンスの要素が強く出る。
『直美』の実の息子が語った彼女の現況が虚偽と分かった時点で
それは頂点に達する。
が、タネが明かされてしまえば驚くほどの拍子抜け。
もう一つのテーマである、中年になってから妻子を捨ててまで全うした純愛の
悲しい結末なのが明らかに。
パートナーの片方が認知症になり、
その愛情が消えてしまったのではないかと疑う、
決定的な出来事が起きた時に
疑念を持ったもう一人が
気持ちの整理をどのように付けて行くのか。
他方、捨ててしまった息子を気に掛けてはいながらも
愛情表現が上手くできない無骨な父親の悲しい性にも
自分と重ね諸々感じるところはあるのだが。
随分とふりかぶったタイトルの割には
やや陳腐な二つの愛情物語に収斂してしまうのが
どうにも肩透かし。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
理屈っぽい『陽二』の造形は、
何故にこうした人物に(最低でも)二人の女性が伴侶になろうとするのかも
疑問を抱いてしまう。
実際に周囲に居れば共感の欠片も持てず、
近づきになることすら御免こうむりたい人物像。
もっとも息子の『卓』にしても、
介護施設の職員と会話する冒頭のシーンでの不遜な態度は、
同じ血が流れているのだなぁ、と
後に理解できる脚本の造りではある。
兎角、人間とは複雑な生き物ではある。