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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ザ・クリエイター/創造者@チネチッタ川崎 2023年10月21日(土)

封切り二日目。

席数407の【CINE11】の入りは三割ほど。

 

 

〔ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016年)〕を監督した『ギャレス・エドワーズ』の新作は
それを凌駕するほどの渾身の一本。

男女の、親子の、人種の愛情を主体に
世界を覆う偏狭な覇権の問題をも取り込む
至極のエンターテインメント作に仕上がった。


AIが実体として人類と共存する近未来。

ある日、AIの策謀で
ロサンジェルスに核爆弾が投下され
100万人以上が殺害される。

その場所を「グラウンド・ゼロ」とメモリアルし、
合衆国はAI掃討へと乗り出す。

その標的となったのは、
人類とAIが共存する「ニューアジア」地域と
そこに潜伏する『クリエイター』の存在。

海兵隊員の『ジョシュア(ジョン・デヴィッド・ワシントン)』は
捜査官として組織に潜入。

が、組織の中心となる女性に恋してしまい・・・・。


「9.11」以降、アメリカが行き着き
世界を混乱させた一連の行い。

テロとの戦い」「大量破壊兵器」「悪の枢軸」といった言葉を彷彿とさせる発端。
作戦を統轄するジェネラルも
心なしか『ジョージ・W・ブッシュ』に似ている気が。

現実世界で「大量破壊兵器」は見つからず
イラクの「フセイン政権」は倒れたものの
その後の中東地域の、今に繋がる混乱を招いたのは周知のとおり。


本作でも、本来のターゲットであるAIのみならず、
平和に共存している人々にも容赦なく銃口を向け、
自国の大義の為には手段を選ばぬ非道さ。

また、AIの仕業とされた核の投下も同様で、
ヒューマンエラーを糊塗する方便でしかなく、
どれだけの犠牲を出しても、自国のメンツの為なら
上層部は心が痛むことはない。


ここ数十年の社会情勢が投影されたプロットと併せ、
人物の造形、登場する乗り物、印象的なシーンなどは
自身の前作を含め、名作と言われるSFからの引用は多々で
既視感が満載。

もっとも、愛情と自己犠牲が主軸となる展開そのものを含め、
それらは何れも確信犯と思われ。
監督自身の日本への偏愛も論を待たず。


最初は『クリエイター』の所在探索で始まった物語は
中途「究極兵器」の破壊へと目的が変わり、
図らずも恋をしてしまった組織の首魁と目される女性の捜索、
更には二人の間にできた子供の代替と見做せるAIの保護へと変遷し進む。

元々AIに対し共感していた主人公のシンパシーは
その過程で愛情に近い感情に変化。

それを目の当たりにする観客は
種を越えた想いに心を打たれ
落涙するほどの感動が押し寄せる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


最初はサーバント的な位置付けだったAIが次第に進化、
やがては現世人類と同様の多様性を持つ進化を遂げるとの発想はユニーク。
これも人口減少への一つの解かもしれぬ。

もっとも監督は、現状での人種間の対立を
念頭に置いているのだろうが。