RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ベイビーティース@チネチッタ川崎  2021年2月21日(日)

封切り三日目。

席数284の【CINE5】の入りは一割ほど。

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タイトルの「BABYTEETH」は「乳歯」の意。
フライヤーのビジュアルや予告編の作りからも、
本作はイニシエーションを経ての一少女の成長譚に違いないと思って観始めると
手痛いしっぺ返しを喰らう。


ストレートプレイからの映画化と聞く。

主要な登場人物は過少。
また各人のキャラクターは、相当重層的に練り込まれている。


主人公の『ミラ(エリザ・スカンレン)』が駅のホームで
ドラッグの売人『モーゼス(トビー・ウォレス)』と遭遇する場面から
舞台の幕は開く。

有り勝ちなボーイ・ミーツ・ガールのエピソードもその後の成り行きは、
かなり捻りの効いた連続。

そしてオープニングのこの場面で既に、
彼女の命運は示唆されているのだが、
鑑賞者の側は後々でなければそのことには気付かない。


『ミラ』は私立の女子校に通い、コンクールに出るほどの
バイオリンの腕前。
しかし所謂、深窓の令嬢とは一線を画す性格付け。
とりわけ十六歳を過ぎて尚、乳歯が残っているとの設定は印象的。

父親は精神科医であり、元ピアニストの母親は
その患者でもあるとの曰く付きの関係。

何故母親が精神を病んでしまったのかはおいおい語られるも、
それは直截的な表現ではなく、あくまでも過去の心情を吐露する形に仮託。

娘を溺愛する父親は、エキセントリックな妻には複雑な感情を持ちつつ、
根底には分かち難い愛情が。


『モーゼス』がなぜ売人に身を持ち崩したのかは判らぬも、
肉親への、特に歳の離れた弟への思いにはひとかたならぬものが。

一方で一宿一飯の恩義になった『ミラ』の家に盗みに入るほど
モラルは崩壊しており、それは自身もドラッグを常用している故か。


『ミラ』は一目で『モーゼス』に好意を持ち、ましてやこれが
俗に言う初恋。一瞬にして舞い上がる。

彼女のありのままを受け入れる『モーゼス』だが、
それは果たして愛情によるものか打算なのかは判らない。

が、この出会いによって確実に変わったのは、
少女よりも寧ろ青年の側。

捻れた形での成長の物語りとして結実する。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


遣り切れなさの残るラストのシークエンスも、
その前段として幾つもの希望は散りばめられている。

新たに生まれいずる命、才能を受け継ぐ存在。

そして何よりも『モーゼス』の変化こそが
最大の遺産なのに違いない。