RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

朝が来る@TOHOシネマズ川崎  2020年11月1日(日)

封切り十日目。

席数150の【SCREEN4】の入りは五割ほど。

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ベイサイドのタワマンの高層階に住み、不自由のない暮らしをおくる夫婦。

が、夫の無精子症のため、自身等の子供を持つことができず、
特別養子縁組で授かった男児を『朝斗』と名付け愛しむ。

幼稚園の年長ともなった息子には、
その年齢の子供にありがちな諍い等も起きるけれど、
過ぎてしまえば何れも瑣事、笑い話しとなって後々の良い想い出になる程度。


そんなの家族の元に、一本の電話から一人の少女がおとなう。
『朝斗』は自分が生んだ子供なので返してくれ、それが叶わないのなら金をくれ、と。

訪れて来たのは本当に実の母親なのか、そして真の目的は何なのかが本作のサスペンス。
しかしそれは構成要素の一端にしか過ぎず。


前半部では、絵に描いた様に幸せなイマイマの家庭の情景と、
過去の不妊治療の顛末、養子を受け入れるまでが描かれる。

時としてさざ波も立つ日々ではあるものの、
後々に押し寄せる大波に比べれば笑って済ませられる程度のもの。


後半部では一転、子供を生んだ少女の側の視線に切り替わる。

過去に同内容を扱った作品でも、不妊治療の大変さや、
なかなか懐かない養子に苦心惨澹するモチーフは多かったけれど、
養子に出す側の苦悩を扱ったケースはなかったかも。

ましては当人は年端もいかない十四歳の少女。
家族は「それがあなたのため」と言うけれど、どこまで信じて良いのか。

生んで育てようにも賛意は得られず、葛藤と怨嗟だけが渦巻き
次第に彼女の心を蝕んでいく。


『河瀨直美』作品としては
〔あん〕と同程度の評価と思う。

社会性は共通も〔あん〕には有ったメッセージ性はやや弱め。
それでも作品全体の価値を損ねることはなく。

もともと同監督はオリジナルよりも
原作ありの方が余程良い作品を撮れると認識。

「カンヌ」で「カメラ・ドール」を取った作品や
「グランプリ」を得た作品などは正直、何処がいいのかさっぱり分からず。
審査員の方々の見方に首を傾げまくったもの。

それが先の一本を観、更には〔光〕にふれることで
その実力のほどを思い知る。

特に主演は言うまでもなく、端役までもが劇中の人物そのものになってしまう演出の凄まじさ。
本作でもそれは如何なく発揮され、まるでドキュメンタリーを観ているほどの臨場感。

もっとも、カメラやBGMもそれをサポートしており、且つ
映像化することで観客をミスリードする技も十二分に発揮しているのだが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


本編の原作は未読も『辻村深月』の小説は何冊かを読了。

ここでも作者お得意の家族関係や思春期の心の揺らぎを繊細に描き、且つ
ミステリーの要素も取り込んで手応えのある作品に昇華している。

そして、けして不幸ではないエンディングが待つのも同様に。

罪の声@TOHOシネマズ川崎  2020年11月1日(日)

封切り三日目。

席数158の【SCREEN3】は九割方の入りと盛況。

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1984年に起きた「劇場型犯罪」の嚆矢とされる「グリコ・森永事件」に着想を得て書かれた
あくまでも物語りの映画化。

異なる子供の声で掛かって来た指示の電話をモチーフに、
三人はその後、どんな人生を送ったのだろうと膨らませた想像が三様のリアルを生む。

ノンフィクションとフィクションとを混交させることで、
実際にそうだったかもしれない可能性を見て来たかの如く提示する。


もっともここで並べられた真相的なものは、
当時もマスコミを含め喧伝された範疇の寄せ集めで
さして目新しさはない。

ただ組み合わせの妙と、事件に翻弄される関係者の転変を描くことで、
欲と業に縛られてしまった人間の悲しみもきちっとドラマ化できているのが手柄。


今から二十年前には時効が成立しているので、当時事件に関わった人間も
口が滑り易くなっているだろうとの補強材料もこれあり。

一方で、三十年以上の昔を皆々が昨日のコトの様に鮮明に記憶していたり、
都合良く事実が次々と繋がって行くのはやはりオハナシ。

それでも二人の主人公を中心に、二時間半の尺をグイグイと押しまくる脚本は
最後まで緊張感を保って進行する。

その頃、自分は最早子供ではなかったけれど、
日頃食べているものに毒が混入されている可能性や、
事件が(模倣犯も含め)広範な地域に及んだことに慄いた記憶も甦る。

市井の人々の反応や生活変化の実際を取り込んでの同時代性はないけれど、
往時をすっと思い起こさせる力がある。


個人的に往時は、警察を揶揄する態度に快哉を送ったり、
ダークヒーロー的に持て囃す風潮には組しなかった側。

何故なら、
マスコミに対しての表向きな文書は、いかにも大阪らしい軽みを入れておきながら、
(劇中のエピソードにもあるように)企業への脅迫状にはえげつない文言を並べ立て
且つ手口も荒っぽいのが衣の下の鎧の最たるもの。

本編では取り上げられなかった事件も多くあり、それらを含めて
消費者を人質に取った新手の犯罪にしか見えなかったから。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


新たな事実の提示よりも、力もなく弱い存在の子供が
大人たちの私欲により翻弄された果てを描く一本。
その先に微かな光明はあるのだろうか、と。

冒頭のシークエンスを注意深く見ていれば、
犯罪を構成した者の一端は、既に示唆されていることからもそれは明らかだろう。

写真新世紀展2020@東京都写真美術館 2020年10月31日(土)

入館時に検温と手指の消毒は最早ルーチン。
初めての頃は戸惑ったけど、今はすんなりとこなせる。

検温の場所も額だったり手首だったり首筋だったり、
はたまた映画館みたいに顔全体だったりと
各所で特色があって面白い。

 

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さて、標題展。
優秀賞七名と佳作十四名の作品が展示。

加えて”2019年度グランプリ受賞者新作個展”も。
こちらは『中村智道』の〔Ants〕。


グランプリは『樋口誠也』の〔some things do not flow in the water〕に決定済み。

写真の画面が洗い流され、元々の印画紙の白に変わるさまを
映像でとらえ作者のモノローグを重ねる斬新な作風。

テーマの設定の仕方も相俟って、確かに目を惹いたかも。


『吉村泰英』の〔馬の蹄〕には不思議な空気が漂う。

写っている二人の男女の関係性もそうだが、何気ない日常を取っているのか、
それとも場を劇場に見立て、演技をしているのか。

何れも関係性の境界が曖昧で
世界に入り込むことすら拒絶しているような。


『小川修司』の〔女学生日和〕は、その口上がふるっている。

いやいや、あなたはなんだかんだと言いくるめ、コミュニケーションを取り、
写真までものしているじゃん、って(笑)。


館内はさほどの混雑にはなっておらず、ゆったりじっくり拝見できる。

ただ例年であればスクラップブック等で総覧できた作品群も
このご時世ではそうもいかず、ディスプレイ上でスライドショー宜しく開陳されてたり。

でもこの方式だと、自分のペースでは見れないし、
行きつ戻りつできないから何かと不便よね。

ま、しょうがないことなんだけど。


会期は~11月15日(日)まで。

田渕正敏展「Choice」@ガーディアン・ガーデン 2020年10月24日(土)

事前の予約制はなくなったもの、
入り口に立ち手指を消毒していると
係員さんが押取り刀でやって来て検温、その後に入館の運び。

比較的早い時間だったので先客もおらず、心おきなく拝見できるのは嬉しい。


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館内に並んでいる作品はほぼほぼ青一色。

エッチングの様なテイストも
近寄って見れば線にはムラがあり、手描きなのが良く判る。

特に段ボールに描かれたものはそれが顕著。


素材は日常にありふれた文物。

ピンチハンガーとか透明なプラスチックの果物容器とか。

遊離はしないものの、かちっとした形で提示されると
昔の青焼きを見ているような不思議な気分にさせられる。


会期は~11月20日(金)まで。


たぶんご本人と思われる方がスタッフルームで係員さんと話されている時に、
消毒もしない検温もしないおじさんがふらっと入って来てしまう。

こりゃいかんと、這う這うの体で退散。
まぁそれまでに、十分に観ていたので、問題は無いのだが。

 

スパイの妻 劇場版@109シネマズ川崎  2020年10月25日(日)

封切り十日目。

席数118の【シアター3】は満員の盛況。

 

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元々はNHKのBS8Kで放送されたドラマと聞く。
それにリサイズ等を施し、劇症版として公開した、と。

ただ上映尺にほぼほぼ違いが無いことを知ったのは
観終わってからのハナシ。

鑑賞中は正直、もっと長い続きモノを摘まんで編集したのかと思っていた。
それほど、二人の主人公の行動や変容には唐突さがありまくり且つ
背景の説明が随分と足りぬ語り口。

唯一、首尾一貫としているのは
憲兵である『津森(東出昌大)』の行動原理だけなのはなんとも皮肉。


舞台は日米開戦前夜の神戸。
貿易商を営む『福原優作(高橋一生)』は山手の豪邸に住み
使用人も抱え、妻の『聡子(蒼井優)』と裕福な生活を送っている。

しかし一方で、西洋かぶれの暮らしぶりが時節柄
やっかみの目を持って見られたりも。

そんな折、昔からの馴染みの『津森』が同地の憲兵隊に赴任した挨拶に訪れる。
三人の間にどのような関係があったのか、つまびらかにされることはないけれど、
『優作』は『津森』が自身の妻に横恋慕していることを知っている。

それが後々のエピソードに効いて来る。


仕事の関係で甥と共に上海~満州を旅して来た『優作』だが、
戻った時から人が変わったようになってしまう。

いや一人、彼だけではなく甥の『文雄(坂東龍汰)』も同様に。

どうやら二人は旅先で、何かを見て知ってしまったらしい。


ここからがタイトルに関連する流れとなる訳だが
「スパイ」とは「wiki先生」によると
「何らかの組織に雇われ、秘かに敵国や競争相手などの情報を得、
雇い主に報告する者の総称」となっているから、
少なくとも『優作』の行為はスパイには当たらない。
義憤にかられ動いているだけ。

要は、「あなたが世間からスパイと指弾されても、
信じる私の気持ちは揺るがない」との妻の気概を謳ったもので。


もっとも、当の『聡子』も、当初は夫の愛情の変節と疑い、
理由を聞いても「売国奴」と罵っていた。
が、あるモノに触れたことであっさりと彼女も豹変する。

観客である我々も同じモノを目にはする、しかし
そこまでのチカラがあるとは得心が行かず
その後に彼女がすることが尋常でなく見えてしまう。

加えて以降の夫婦の行動、特に夫のそれは
(終盤では、ある程度予見ができてしまうものの)
どういった思いに基づいてのものなのか?

勿論、幾つかの仮説は立ち、解釈は観客の側に委ねられていることは判っていても、
もやもやとしたわだかまりが鑑賞後も残ってしまう。

特に、エンドロール直前に出される数行のテロップがそれを助長する。


そういった瑕疵はあるものの、サスペンスの盛り上げ方は堂に入ったもので
それが本作の最大の魅力。

妻の方の訳の分からぬ行動を覆い隠してしまうほどに。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


優れた反戦ものとのカテゴライズもできようが、
個人的には普遍的な信念や夫婦愛を扱った一本と思いたい。

もっともそれらを構成するエピソードの一つひとつが弱く、
通して観た時に不自然さを感じてしまうのだが。

第14回 shiseido art egg 西太志展@資生堂ギャラリー 2020年10月24日(土)

入場が予約制になってからは初の訪問。

入り口も【中央通り】の一か所に限定されている。

入場すると手指の消毒と検温、
その後入館目的の確認があり「ギャラリー」を告げると
奥への案内。

馴染みの階段を降りた受付でQRコードを提示し入場。

中には「スマホ、携帯持ってないんで予約できません」との来場者もおり。

リーフレット等も置かれておらず、
壁に貼られたQRコードを読み取り確認する方式。

でもなぁ、スマホを持ってないと厳しいよねこれは。

 

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で、薄暗い館内には大判なドローイングと立体が数点。
特に奥の小部屋はアトリエの様に雑然としており、
まさにアーチストがたった今まで制作に勤しんでいたような趣き。


展覧会自体のタイトルは「ゴーストデモ」。

何点かの平面を観るうちに、幼い頃の記憶が甦る。

田舎の家の裏手には松林があり、
そこに椎茸の種駒を打ち込んだ榾木を置き
毎晩のように米のとぎ汁をを掛けていたら
もの凄い勢いで椎茸が生えて来たこことか。

またその松林は冒険や探検、遊びの場でもあり
木登りは勿論、秘密基地を作ったり
時にはカップルが居るのを盗み見たり、
或いは捨ててあったエロっちい本をどきどきしながら頁をめくったこととか。

直截的ではないけれど、
想い出が刺激され、画のテイストとはやや乖離するけれど
甘酸っぱい気分に浸ってしまう。


会期は~10月25日(日)まで。

東京デトロイトベルリン@トーキョーアーツアンドスペース本郷 2020年10月18日(日)

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出展作家達やその拠点となるアートスペースの
所在地を並べてタイトルとした、との
理解で宜しいか。

ただ全体的にあまりに跳び過ぎていて、
自分の嗜好とは合わない作品が殆どで。


唯一笑えたのが映像作品、
『バス・ヤン・アデル』の〔無題(ティーパーティー)〕。

二分弱の小品ながら馬鹿々々しさが溢れ返っている。

脳の小さい雀でも、こんなトラップには引っ掛からないよね。
それが貴族然とした青年がまんまと掛かってしまうほど、
紅茶は蠱惑的な飲み物なのかしら(笑)

 

会期は~11月8日(日) まで。