RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

罪の声@TOHOシネマズ川崎  2020年11月1日(日)

封切り三日目。

席数158の【SCREEN3】は九割方の入りと盛況。

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1984年に起きた「劇場型犯罪」の嚆矢とされる「グリコ・森永事件」に着想を得て書かれた
あくまでも物語りの映画化。

異なる子供の声で掛かって来た指示の電話をモチーフに、
三人はその後、どんな人生を送ったのだろうと膨らませた想像が三様のリアルを生む。

ノンフィクションとフィクションとを混交させることで、
実際にそうだったかもしれない可能性を見て来たかの如く提示する。


もっともここで並べられた真相的なものは、
当時もマスコミを含め喧伝された範疇の寄せ集めで
さして目新しさはない。

ただ組み合わせの妙と、事件に翻弄される関係者の転変を描くことで、
欲と業に縛られてしまった人間の悲しみもきちっとドラマ化できているのが手柄。


今から二十年前には時効が成立しているので、当時事件に関わった人間も
口が滑り易くなっているだろうとの補強材料もこれあり。

一方で、三十年以上の昔を皆々が昨日のコトの様に鮮明に記憶していたり、
都合良く事実が次々と繋がって行くのはやはりオハナシ。

それでも二人の主人公を中心に、二時間半の尺をグイグイと押しまくる脚本は
最後まで緊張感を保って進行する。

その頃、自分は最早子供ではなかったけれど、
日頃食べているものに毒が混入されている可能性や、
事件が(模倣犯も含め)広範な地域に及んだことに慄いた記憶も甦る。

市井の人々の反応や生活変化の実際を取り込んでの同時代性はないけれど、
往時をすっと思い起こさせる力がある。


個人的に往時は、警察を揶揄する態度に快哉を送ったり、
ダークヒーロー的に持て囃す風潮には組しなかった側。

何故なら、
マスコミに対しての表向きな文書は、いかにも大阪らしい軽みを入れておきながら、
(劇中のエピソードにもあるように)企業への脅迫状にはえげつない文言を並べ立て
且つ手口も荒っぽいのが衣の下の鎧の最たるもの。

本編では取り上げられなかった事件も多くあり、それらを含めて
消費者を人質に取った新手の犯罪にしか見えなかったから。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


新たな事実の提示よりも、力もなく弱い存在の子供が
大人たちの私欲により翻弄された果てを描く一本。
その先に微かな光明はあるのだろうか、と。

冒頭のシークエンスを注意深く見ていれば、
犯罪を構成した者の一端は、既に示唆されていることからもそれは明らかだろう。