封切り十日目。
席数118の【シアター3】は満員の盛況。
元々はNHKのBS8Kで放送されたドラマと聞く。
それにリサイズ等を施し、劇症版として公開した、と。
ただ上映尺にほぼほぼ違いが無いことを知ったのは
観終わってからのハナシ。
鑑賞中は正直、もっと長い続きモノを摘まんで編集したのかと思っていた。
それほど、二人の主人公の行動や変容には唐突さがありまくり且つ
背景の説明が随分と足りぬ語り口。
唯一、首尾一貫としているのは
憲兵である『津森(東出昌大)』の行動原理だけなのはなんとも皮肉。
舞台は日米開戦前夜の神戸。
貿易商を営む『福原優作(高橋一生)』は山手の豪邸に住み
使用人も抱え、妻の『聡子(蒼井優)』と裕福な生活を送っている。
しかし一方で、西洋かぶれの暮らしぶりが時節柄
やっかみの目を持って見られたりも。
そんな折、昔からの馴染みの『津森』が同地の憲兵隊に赴任した挨拶に訪れる。
三人の間にどのような関係があったのか、つまびらかにされることはないけれど、
『優作』は『津森』が自身の妻に横恋慕していることを知っている。
それが後々のエピソードに効いて来る。
仕事の関係で甥と共に上海~満州を旅して来た『優作』だが、
戻った時から人が変わったようになってしまう。
いや一人、彼だけではなく甥の『文雄(坂東龍汰)』も同様に。
どうやら二人は旅先で、何かを見て知ってしまったらしい。
ここからがタイトルに関連する流れとなる訳だが
「スパイ」とは「wiki先生」によると
「何らかの組織に雇われ、秘かに敵国や競争相手などの情報を得、
雇い主に報告する者の総称」となっているから、
少なくとも『優作』の行為はスパイには当たらない。
義憤にかられ動いているだけ。
要は、「あなたが世間からスパイと指弾されても、
信じる私の気持ちは揺るがない」との妻の気概を謳ったもので。
もっとも、当の『聡子』も、当初は夫の愛情の変節と疑い、
理由を聞いても「売国奴」と罵っていた。
が、あるモノに触れたことであっさりと彼女も豹変する。
観客である我々も同じモノを目にはする、しかし
そこまでのチカラがあるとは得心が行かず
その後に彼女がすることが尋常でなく見えてしまう。
加えて以降の夫婦の行動、特に夫のそれは
(終盤では、ある程度予見ができてしまうものの)
どういった思いに基づいてのものなのか?
勿論、幾つかの仮説は立ち、解釈は観客の側に委ねられていることは判っていても、
もやもやとしたわだかまりが鑑賞後も残ってしまう。
特に、エンドロール直前に出される数行のテロップがそれを助長する。
そういった瑕疵はあるものの、サスペンスの盛り上げ方は堂に入ったもので
それが本作の最大の魅力。
妻の方の訳の分からぬ行動を覆い隠してしまうほどに。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
優れた反戦ものとのカテゴライズもできようが、
個人的には普遍的な信念や夫婦愛を扱った一本と思いたい。
もっともそれらを構成するエピソードの一つひとつが弱く、
通して観た時に不自然さを感じてしまうのだが。