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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

岸辺の旅@チネチッタ川崎 2015年10月1日(木)

本日初日。
席数284の【CINE 5】の入りは五割ほど。


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三年間行方知れずだった夫『優介(浅野忠信)』が突然姿を現す。
そして自分はもう死んでいて、
記憶を辿り、漸く元の家に帰って来れたと話し出す。

更には、戻るまでの三年間に世話になった人達に
挨拶に回る旅に出ようと妻『瑞希深津絵里)』を誘う。

そのことを自然と受容し、
夫婦で旅に出るのだが、この時点で既に
観客も含め多くの「死」に憑りつかれてしまっている。


複数の土地を巡る旅は、全てが濃密に「死」に絡め捕られており、
幾つかのエピソードは監督得意のホラーものを思わせる演出で、
ちょっと背筋がぞくっとしてしまう。

なぜなら、死者である筈の『優介』は食事もするし電車にも乗る、
あまつさえ『瑞希』以外のものと自然に会話までする。

そして彼の様な死者は、実は世間に数多存在しているようなのだ。


此処では、「生」と「死」は表裏一体で、紙一重
密接に結びつていることが示される。

タイトルにある「岸辺」は
「此岸」と「彼岸」の境目である様だ。


旅を続けるうちに、その目的が
次第に『瑞希』にも理解される。

一つは『優介』が世話になった人達に救済を与えること。
そしてもう一つは夫婦でありながら、意外と互いを知らず、
特に居なくなった夫を探し八方手を尽くす内に、
彼の秘密を知ってしまった妻の心を寛解に導くこと。


それを達成した後には、
何が待っているのか。

妻にとっても、観客の側にとっても、
けして涙だけでは終わらない。
寧ろ、清々しささえ感じてしまうエンディング。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


瑞希』が、夫が勤務していた医局の事務員『朋子(蒼井優)』と
対峙するシーンが頗る良い。

特に、僅かにテンポずらしたカット割りが、
その時の二人の心情にぴったり嵌る。

蒼井優』の演技共々、実は本作の白眉である。