RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

異人たち@TOHOシネマズ錦糸町 オリナス 2024年4月21日(日)

封切り三日目。

席数114の【SCREEN5】の入りは三割ほど。

 

 

片岡鶴太郎』はべらんめぇな父親役が、
秋吉久美子』はきっぷの良い母親役がそれぞれ似合っていた。

そんな両親が、十二歳の頃に死に別れたままの姿で
懐かしい浅草の地で暮らしている。

今朝分かれたばかりのような気軽さで「よう!」と声を掛けられてから
主人公は足げく二人のもとに通うことに。
まるで失われた少年時代を取り戻すかのように。

そこでは離婚した妻子のことも忘れ、
昔に戻ったように素直になれた。

しかし日が経つうちに、彼のカラダは衰弱しだし、
母親は「やっぱりねぇ。もう死んだ人間と一緒に居るのは不自然なんだよ」と言い、
別れの日が訪れる。

両親は自分たちが既にして死者であり、未練でこの世に戻されたことを認識。
再び得た楽しい日々ではあるものの、我が子可愛さにそれを手放すことを決断。

三人で囲む「今半」での「すき焼き」の湯気を前にして、両親の姿は消えて行く。
「行かないで!!」と泣きながら訴える姿は哀切極まりなく、
ここで落涙しない人間はおらぬだろう。
大林宣彦』らしい叙情的なシーン。

主人公にとっては、自身の寿命を引き換えにしても、全うしたい懐かしい想いなのだ。

にもかかわらず、彼の衰弱は進む一方。なぜならば・・・・と、
曰く付きのラストのシークエンスへ突入。
これをもっと巧く創っていれば、どんなに素晴らしい作品になっていたことか。

元々の企画であった{ホラー}の残滓ともされているが、
監督の長編デビュー作(制作も兼ねる)は〔HOUSE ハウス(1977年)〕だったことを忘れてはならぬ。

これが〔異人たちとの夏(1988年)〕。


では同じ『山田太一』の原作を
イギリスを舞台に移し撮られた本作はどうか?

〔生きる LIVING(2022年)〕と同様のケースで、先作は事前の不安をよそに、
世評の高さは周知の通り。個人的にも高めの評点。


ただ今回、監督の『アンドリュー・ヘイ』は主人公をゲイにするとの
大きな改変を加えている。

これにより、都会に一人住む男の
孤独や寂寥が際立ち伝わるように。

それ以外のプロットはほぼほぼ前作通りも、
やはり両親との別れのシーンでは日本的情緒を加味した表現に軍配。
もっともこれは、自分が日本人だからかもしれないが。


その後の展開もやや{ファンタジー}によったもの。

人を愛することを知らずに育った男が、
通過儀礼を経て愛することを覚えた、との。

が、その相手が、実態を持たぬ存在なのは
それで良いのか?と、疑問に感じるところ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。

 

日本に比べると、
キスをする、抱き合う等のフィジカルな愛情表現が濃密な西洋との認識。

なのに、本作よりも、「大林版」で描かれた両親の方に、
愛情の深みを感じてしまうのは
一つ同郷なだけが理由ではない気がする。