RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

異端の鳥@TOHOシネマズ川崎  2020年11月3日(火)

席数150の【SCREEN4】の入りは六割ほど。
封切り一ヶ月にならんとしているのに
この埋まり具合は凄い。

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以前であれば「エキプ・ド・シネマ​」あたりでしか観られなかった作品が
シネコンで掛かるのも時代だな、と思う。

ましてや三時間尺の大作、よく上映に踏み切ったものだと
違う意味で感心する。

もっともインターミッション無しでこの長尺はかなり辛くて、
観終わって腰を上げたらお尻が痛い痛い。

確か〔赤ひげ〕や〔レッズ〕の時は有ったよな、
木靴の樹〕はどうだったかしら?

でも、間に休憩を入れたら、九十分尺だと二本上映できちゃうもんね。
興行的には無い選択だろうなぁ。


おっと閑話休題


本編は、舞台となる場所も時代も最初は曖昧な描写。

会話ですら、何処の国とも特定できぬ
嘗て耳にしたこともないような発音。

朧げな表現は、
主人公が知見を得る過程を観客にも追体験させるための
全て計算づくの仕掛けのよう。
これにより最後のシークエンスの描写が俄然効いて来る。


随分と辺鄙な田舎に住む叔母の元に預けられている主人公の少年。
よそ者とのこともあり、
地元に住む子供等から強烈な虐めを受けている。

でもその背景には、それ以外の訳もありそうで。
叔母もそのあたりを弁えており、遠くに出歩かぬよう戒めている。

託された理由も直截的に述べられることはないけれど、
少年は両親が迎えに来ることを心待ちに。

そんなある日のこと、突然に叔母が亡くなり、
住んでいた家も失火で焼失、少年の放浪が始まる。

あてどなく両親を探す旅はしかし、幼い身にとって苦難の連続。


本編は幾つかのチャプターに分かれており、
時々で主人公と関りを持つ人物の名前が
各章の冒頭にタイトル宜しく提示。

最初に示唆された如く、少年には常に死の匂いが付き纏い、
行く先々で事件が頻発、ごろごろと死者が出る。

名前を出された人々も、転がり込んで来た
或いは拾い上げた少年を自分の都合の良いように使おうとしたしっぺ返しとして
多くは不幸に陥るのだが
そのほとんどは自業自得。

最初は受け身一方だった主人公が
次第に反逆の牙を剥くようになった帰結としてもあり。

戦時下で生き抜くためにはやむを得ぬこととして捉えはするものの
時として無辜の人を死に追いやるケースでは
シンパシーを持って見守る観客の側にも微妙な感情が湧き起こる。


中途から、彼が排斥される理由がユダヤ人であるからとも明らかになり
独逸軍や共闘するコサック兵、それと戦うソ連軍も登場するに及び
場所はどうやら東欧のどこかで、
時は第二次大戦末期のここと推し測れるように

収容所へ移送される中途のユダヤ人のエピソードが挟み込まれる段になり
全てのピースが出揃い、物語りは団円に向かう。

それを言葉をあまり使わずに、映像の積み重ねだけで表現することに
製作者サイドの手腕の冴えを見る。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


そしてラスト。ここでも会話はほぼほぼなく、
カットの積み重ねだけで苦難の背景が説明され
少年もそれを瞬時に理解する。

記憶に残る名シーンと言える。