封切り四日目。
席数118の【シアター3】の入りは七割ほど。
北海道の少年スポーツの事情はこうなっていたのか。
たぶん物語りの舞台は小樽だろう。
夏場は野球。冬になれば積もった雪でグラウンドが使えないので
同じメンツでアイスホッケー。
でも、これじゃあ用具代が高額で、
よほどの金持ち世帯でないとムリな気がするのだが。
『タクヤ(越山敬達)』は吃音を同級生にからかわれ、
野球もセンターの背番号を貰っていながら、
練習中もぼ~っとしている。
アイスホッケーでもゴールキーパーを押し付けられ、
そこでも動きが鈍く、易々とゴールを次々に許してしまう。
打ち込めるものが無い、なんとも中途半端な日常。
そんな彼が、練習後に向けた視線の先に居たのは。
『さくら(中西希亜良)』は『タクヤ』よりも年長で
フィギュアスケートに熱中。技量もかなりのもの。
謝礼を払いコーチをアサインし指導を受けるが、
的確な指示に不満はないものの、
時としてコーチが自分を見てないのが不満のタネ。
『荒川(池松壮亮)』は嘗ては一流選手だったようだが、
今は現役を引退し、スケートリンクの管理をしながら
『さくら』のコーチも務める。
が、暫く前から、視界に気になる影の存在が。
『タクヤ』が『さくら』の真似をし、
アイスホッケーのシューズでフィギュアスケートに挑み転び続ける。
『荒川』は専用のシューズを貸し与え、時間を見ながら指導、
ある程度サマになったタイミングで
二人にアイスダンスへの挑戦を提案する。
最初の三人の視線は見事に三角関係。
それが二人がアイスダンスの練習を重ねるうちに
ベクトルに変化が生じる。
全てが上手く回り出したと思った矢先、
『荒川』が同性の恋人とじゃれあうのを目撃した『さくら』は
少女らしい潔癖さと視線の意味を曲解し、以降の指導を拒絶する。
三人の関係の線は、ぷっつりと千切れてしまったようにも見えた。
デビュー作の〔僕はイエス様が嫌い(2018年)〕でもそうだったように
『奥山大史』が撮ると寒々しい雪でさえ、
何故かふわりと暖かいものに感じてしまう。
差し込む柔らかい光線の具合も同様で、
凍てついた季節も、何時かはほころびる日が来ることを予感させる。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
本作ではラストシーンでとりわけ明快に
それが示唆される。
思わず胸がきゅんとするような
希望に満ちた結末が。