RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

瞳をとじて@TOHOシネマズ川崎 2024年2月12日(月)

封切り四日目。

席数158の【SCREEN3】の入りは七割ほど。

 

 

寡作にもほどがある。
本作は実に三十一年ぶりの新作。

監督の『ビクトル・エリセ』は
1967年から五十六年間の活動歴で撮った長編は僅かに四本。

そのうち一本は{ドキュメンタリー}なのを勘案すれば
もう呆れるほかはない。

もっとも、先の二本
ミツバチのささやき〕〔エル・スール (1982年)〕は
何れも佳作なのだが。


本作は映画〔別れのまなざし〕の撮影場面から始まる。
監督の『ミゲル(マノロ・ソロ)』にとっては二本目の長編。

しかし旧友であり主演俳優の『フリオ(ホセ・コロナド)』が突然に失踪したことから頓挫、
作品は未完に。

それから二十有余年、『ミゲル』が未解決事件を取り上げるテレビ番組に出演したことから
物語りは動き出す。

『フリオ』らしい男が海辺の施設に居るとの情報が寄せられ
『ミゲル』は現地に向かう。


三時間に近い長尺も、刈り込めば二時間程度に収めることは可能だったろう。
しかし先の劇中映画の撮影場面も含め『ビクトル・エリセ』は多くの要素を盛り込む。

とりわけ狂言回しとなる『ミゲル』の過去の記憶については
執拗との表現があたるほどに。

とは言え、それらは何れも直接的ではなく、
あくまでも婉曲に。

二人と関係のあった女性とのエピソード、
『ミゲル』の家族が壊れてしまった理由やイマイマの彼の生活、
或いは互いが知り合うことになった経緯について。

潤沢にとられた時間の中で
主人公たちの今と昔に仔細にふれることで
あたかも彼らが実存するようにすら感じてしまう。


ここで存在感を発揮する登場人物がもう一人。

『フリオ』の娘『アナ(アナ・トレント)』は
長い間行方不明だった実の父が見つかったとの報に
最初は半信半疑ながら施設に赴く。

しかし『フリオ』は過去の記憶を喪失してしまっており、
旧知の『ミゲル』をも認識できない。

では『アナ』と会うことで記憶は蘇えるのか、が
新たに提示されるサスペンス。

そして、もう一つの謎、
なぜ彼は失踪したのか?の疑問も
解き明かされるのだろうか。


ここで昔からの映画ファンは
ミツバチのささやき〕のあの科白が
おそらく発せられるだろうと予感し期待する。

そのために役名を『アナ』として統一したのだろうと。

劇中劇の〔別れのまなざし〕は
生き別れとなった娘を父親が捜すとの真逆の構成。

完成版はないものの、数巻のラッシュは残っており、
それもストーリーに強く関係させるのは
やはり監督の映画愛なのだろう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


1972年の制作の〔ミツバチのささやき〕が日本で公開されたのは
1985年のこと。

スクリーンでは五歳の姿も
1966年生まれの『アナ・トレント』は既に十九歳だったわけで。

それから幾年月、再び本作で姿を見せた彼女は
いかにも年相応の外見。

過ぎた年月の永さを想わずにはいられない。