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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

オフィサー・アンド・スパイ@TOHOシネマズシャンテ 2022年6月4日(土)

封切り二日目。

席数224の【シャンテ-1】の入りは八割ほどと盛況。

 

 

エミール・ゾラ』の評伝を読めば必ず触れられる
ドレフュス事件」。

十九世紀末のフランスでの免罪事件に対し、
彼が新聞紙上に「J'accuse」と発表した公開状。

いみじくも劇中では「私は弾劾する」とも訳されているし、
「私は告発する」でも良いのだが、それが本作の原題。

それを〔オフィサー・アンド・スパイ〕などと翻案した、
日本の配給サイドは相変わらずセンスが無いと思ったけれど、
元ネタの小説のタイトルが〔An Officer and a Spy〕らしく、
そこから頂いたのね。

確かに『ヒッチコック』による〔私は告白する/I Confess(1953年)〕や
直近では〔私は確信する/Une intime conviction(2019年)〕もあったりで
それなりに苦肉の策とは失礼か、理由のあったことと思われ。


とは言え、今回の主人公は『ゾラ』ではなく
陸軍中佐の『ピカールジャン・デュジャルダン)』。

諜報機関長への就任を契機に、スパイ事件の調査を始めたところ、
件の事案に行き当たり,
どうやら『ドレフュス(ルイ・ガレル)』は犯人ではないのでは?と
疑念を持ち始める。
 
大尉は嘗ての教え子だったこともあり、その人となり、或いは
懐具合や、国への忠誠度についても該博な知識を持っていた背景もあり。

所謂、正義の人である『ピカール』は疑いを晴らすために動き出すのだが、
そのことが却って、自身に災厄をもたらしてしまう、との筋立て。


監督の『ロマン・ポランスキー』は、当年取って八十八歳。
が、その年齢をとても感じさせない、重厚な造り。

スリルありサスペンスあり、裁判や決闘シーンありと、
起伏のある描写とシチュエーションもテンコ盛り。

もっとも、その決闘については、「決闘裁判」なのだろうか
ことの次第が判らず、戸惑ってしまったのは正直なところ。

また、登場人物は皆々口髭を生やした類似の相貌のため、
人物の識別と関係性理解に苦労する、との
日本人らしい悩みもあったり。


本作での気づくべき点は三つほど。

ユダヤ人への偏見
官僚制の腐敗
愛国心を隠れ蓑にした欺瞞

ユダヤ人商店のウインドウに「ダビデの星」を書きなぐり
破壊するとは、その後の「水晶の夜」にも繋がるような所業。
監督もユダヤ人であることから、どうしてもこの種の描写は
熱めになるのかな。

権力が必ず腐敗するのは世の常。
保身に走り、その為には、善良な第三者の犠牲など
屁とも思わなくなる。

そして、愛国が居丈高に唱えられる際には、
その裏に自己の都合の良さが隠れていることを
常に疑ってかかることの必要性。

しかし、この何れもが、今でも
世界中で或いは身近で起きていることではないか。

百十余年の時を経ても、社会は、或いは人間は
何も変わっていない。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


原作者の『ロバート・ハリス』は、〔The Ghost〕との小説も書いており、
ポランスキー』はこれも〔ゴーストライター(2010年)〕として映画化している。

俳優や脚本家とは勿論のこと、
小説家との相性についても
改めて思った次第。