封切り二日目。
席数142の【SCREEN1】の入りは八割ほど。
一目で『ウェス・アンダーソン』の作品と了解される
画面を構成する幾つかの定型。
チープなマット合成や、ミニチュアチックな建物、
パステル調のしかし鮮やかな色味。
長く観ていると目がちかちかとしてしまう
『デイヴィッド・ホックニー』もかくやの表現。
一瞬にして、監督が創造した物語り世界に入り込ませるテクニックは見事。
そこではスラップスティックじみた出来事に
時として挟み込まれるペーソスが繰り返される。
また、オールスターキャストであることに於いても。
『ウィレム・デフォー』や『マーゴット・ロビー』等が
ほんの些細な短い登場時間で出ていることの凄さ。
観客だけでなく、俳優たちをも惹き付けるサムシングがあるのか。
「アステロイド・シティ」は「モニュメント・バレー」を思わせる
砂漠のど真ん中のさびれた町。
近隣では核実験が行われ、時として立ち上るキッチュなキノコ雲。
しかし時代設定の1955年を勘案した時に、
これは一面の真実。
『広瀬隆』が〔ジョン・ウェインはなぜ死んだか(1982年)〕で書いたように
周辺では実際に核実験が頻繁に行われていた。
ただ、当該の町はあくまでも架空。
演劇の舞台として創造され、
更にその制作過程がテレビ中継され多くの視聴者が見、
その外側で我々観客が映画館で鑑賞するとの複雑な構成。
一方で、登場するのは実在を思わせる人物。
人気女優の『ミッジ・キャンベル(スカーレット・ヨハンソン)』は
『マリリン・モンロー』か。
当時の彼女は『ジョー・ディマジオ』と結婚しており、
時として暴力も振るわれていたハズ(のちに離婚)。
また、演劇学校で「メソッド演技法」のワークショップに参加しているのも
描かれている通りで現実と符合。
またこのシーンには『ジェームズ・ディーン』を彷彿とさせる人物も登場し、
彼も「メソッド演技法」を多用したハズ。
それにしても改めて思うのは、
こうした知識があるほど楽しめる要素は
監督は勿論散々勉強しているのだろうが、
彼の国の観客たちにも、相応の認識がある前提だろうか。
何時も悩んでしまう。
おっと閑話休題。
この時代に他の著名人も愛用したパイプ煙草をことある毎に吸う
戦場カメラマン『オーギー(ジェイソン・シュワルツマン)』と
『ミッジ』が物語の主軸。
彼は数ヶ月前に妻を亡くしたばかり(の、設定)、
後者については前述の通りで、
共に喪失の痛みを感じている。
そうした登場人物の心の傷を
幾つもの「壁」を越えて
我々は感じ取ることができるか。
ドタバタとした喜劇調に
目くらましされてしまう気も。
評価は、☆五点満点で☆☆☆★。
虚構の中に現実が入り込む世界観や
入れ子構造も含めて〔グランド・ブダペスト・ホテル(2014年)〕でも使われた技法は今回も健在。
特徴的な画面表現も含め
今後もこれが続くと鼻に付くようになるのでは、と
杞憂に終われば良いが。
もっともそれを「※※※※らしい!」と、
賛美する人も出て来るようだが・・・・。