RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

聖地には蜘蛛が巣を張る@チネチッタ川崎 2023年4月15日(土)

封切り二日目。

席数244の【CINE6】の入りは五割ほど。

 

 

昨年の九月にテヘランで起きた事件。

二十二歳のマフサ・アミニさんが、
ヒジャブを適切に着用していないとして道徳警察に拘束され
その後亡くなった。

警察側は彼女が心臓発作を起こしたと主張も、
家族は直前まで健康体であったと話したことからイラン国内は、いや
世界中が騒然となり
そのレジスタンス、とりわけ
女性によるものは今も続いている。


本作を観て思い起こしたのは
このニュースと、過去のエピソードと事件。


どこまでホントのことかは知らぬが
人類で最古の職業は売春だと。

それだけ女性の性は対価性があるとの証左も、
一方で、インフォマニアでもない限りこれを好んでする人はおらず
差し迫った理由があると考えるのが妥当。

本編では、麻薬の摂取と結び付けられる描写も、
そうでもしなければとても素面では相対できぬことのあらわれ。

根源には社会的な貧困問題があるにもかかわらず、
犯人に賛意を挙げる多くの人にこの視点は欠けている。


十九世紀後半にロンドンの街を恐怖に陥れた
ジャック・ザ・リッパー」も、やはりその対象は娼婦。

喉と腹を切り裂く残虐な犯行は
おそらくシリアルキラーによる快楽殺人。

模倣犯の発生とともに、
貧困街へ視線が向く契機ともなる。

もっとも、階級意識が強い当地では、
今でも住む場所にまつわる差別は厳然とあるよう。


実際に起きた事件を基にしたとの触れ込み。
ここでは女性記者の『ラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)』が
狂言廻しとなり、犯人を追う。

が、犯人は冒頭から労働者の『サイード(メフディ・バジェスタニ)』と示され、
ミステリー的要素はない。

むしろ彼女が取材の過程で
なまじ女性であるばかりに
官憲からも性的な抑圧を受けることに驚きを隠せない。

これこそが、彼の地の女性に対する態度の右代表であり、
社会制度に巣食う問題なのだろう。


犯人の『サイード』は敬虔なイスラム教徒で、
家庭では良き夫、且つ三人の子の父親。

しかし「イラン・イラク戦争」への従軍からのPTSDや
「神の意志の代行。聖地の浄化のため」と嘯く割には、
快楽殺人の要素も示唆される。

もっともこうした言説が通用すれば、
世の中に殺人罪は成立しなくなる。

が、大衆はそうした真理に頓着せず、愚集と化す。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


ほんの少し異なる道を歩んでいれば、
自身も被害者と同じ側に立つのだとの想像力の欠如。

扇情主義が跋扈する世界で暮らすことは
あまりに窮屈だ。