封切り二日目。
席数107の【CINE1】の入りは三割ほど。
元々は、ある大富豪の
ジャストアイディアから転がり出た話。
製薬企業で財を成し、一万人の従業員を養う彼は
八十歳の誕生日にふと思い付く。
自分の名前を後世に残し、且つ
多くの人から感謝されるコトをしたい、と。
自身の名を冠した橋を(地域貢献宜しく)掛ける、と
同時に出たのが
「賞を獲れるような映画作品に出資する」との企画。
映画であれば短い期間で成果を出せるとの思いも有ったかも。
勿論、本人は仕事にかまけ、文化・芸術なんぞに
とんと興味は無く。
ノーベル賞受賞作家の(読んだこともない)小説の版権を金ずくで買い、
多くの賞を総なめにした監督をアサインする。
しかし、その監督『ローラ(ペネロペ・クルス)』は
相当に変わり者で、エキセントリック。
台本の読み合わせ時のメソッドも、
数学的のようで実は感覚的。
「※※の感情が三割」などと言われても、
普通であればとても対処できぬような。
或いは、5屯もある大石を
クレーンで俳優たちの頭上にぶら下げ
「緊張感を出すため」と、平然と言い放つ。
あまつさえ、彼等を身動きができない状態にしておいてから、
持って来させた過去の受賞トロフィーを
目の前で破砕機に放り込み粉々にする始末。
本当にそれは効果的なリハーサルなの?と
観ている側は首を傾げるが、翻弄される二人の男優の姿に
憐憫を感じつつ、思わず笑ってしまうのも事実。
一方の俳優『イバン(オスカー・マルティネス)』は舞台からの叩き上げ。
大学でも演劇の授業を持ち、自身の演技には自信満々。
他方の『フェリックス(アントニオ・バンデラス)』は
典型的なハリウッド俳優。
一種、軽佻浮薄で多くの女優と浮名を流しながら
その人気は知れ渡り。
両者は水と油でそりは合わず、時に騙し合い、
時に迎合し、何とかクランクインを迎えるものの
そのタイミングで、
思わぬ事件は起きる。
『ローラ』は事件の犯人を薄々感づいている。
が、それを暴露すれば撮影は中止となり、
折角の傑作の可能性も封印されることから口を噤む。
作品の為なら、多少のことなら目を瞑り、
加えて他人のアイディアすらもちゃっかり借用する精神性。
ここに我々は利己的な芸術家の「業」を見る。
これで犯人と監督は、フィフティフィフティの関係になるのだが、
この三人の造形には既視感が。
過去の映画で繰り返し描かれた来た監督や俳優を
カリカチュアライズして描いているのだと了解する。
作品はクランクアップし、
会見でも多くの記者を集め
鼻高々な、出資者・監督・俳優の面々。
果たしてヒット共に、受賞をし、
更な名声を得ることができるのか。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
齢五十にもなろうかという
『ペネロペ・クルス』の存在感は素晴らしい。
ホットパンツを履き、
剃毛していない脇を晒し、
怪しげな踊りまで踊って見せる。
とは言え、
直接我々に語り掛ける
最後のシークエンスでのモノローグは深淵。
そこにこそ、映画の本質は凝縮されている。