RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

SHE SAID シー・セッド その名を暴け@TOHOシネマズ日比谷 2023年1月15日(日)

封切り三日目。

席数120の【SCREEN8】は満員の盛況。

こんな社会派ドラマが混むことは意外も、
もっと広い小屋を割り当てれば良かったのに、と
これは興行サイドに立った思い。

 

 

〔スキャンダル (2019年)〕では
「FOXニュース」の経営トップ『ロジャー・エイルズ』によるセクハラが描かれ、
やはりこれも世界的な「#MeToo運動」の先駆けとなる。
この提訴が起こされたのは2016年のこと。

そして本作では「ミラマックス」で権勢を振るった
ハーヴェイ・ワインスタイン』について語られる。

先の作品は、『エイルズ』が亡くなって間もなくの映画化に対し、
『ワインスタイン』は存命且つ七十歳の若さ。

アメリカの映画界が次第に先鋭化している証左とも取れ
また共に「アンナプルナ・ピクチャーズ」が制作に名を連ねているのは面白いし
今回は更に『ブラッド・ピット』が製作総指揮となっているのも興味深い。


こうした権力をかさに着た者の暗部を暴く作品は、
過去からも力作・名作が多いわけだが、
本編とて例外には非ず。

ただ、主に女性の手による調査報道の経緯なのは
珍しいかもしれぬ。


とは言え、登場人物も多く、
その独特の語り口もあり、
流れは理解しているから良いものの、
人物の相関がすっと頭に入って来ないのは何とも困りもの。

とりわけ冒頭のシークエンスは、
何の為の挿入か最初はさっぱり理解できずにおり。

しかし次第に、被害者の一人が
映画界と加害者に携わることとなった重要なパーツなのが判明するも、
切れ切れに提示されるピースを頭の中で上手く整理することが必要で、
西洋人の人相パターンが多くインプットされていない日本人には
名前の記憶も含めなかなかの苦行。


狂言廻しは二人の女性記者であり、
その家庭の様子も描写されるのは、
女性が社会で活躍することのハードルの高さを示すためとも理解。

が、本作でとりわけ時間が多く割かれるのは、
被害を受けた女性や、『ワインスタイン』の周囲の人々の
生活や感情に分け入ったエピソード。

前者であれば、自分が何故に被害をとの思いに加え、
示談に応じず、強く声を上げていれば、
それ以降の被害は食い止められたのではとの苦悩。

後者であれば、そうした行為の一端を知りながら
やはり止められず、実際の被害の多さを知らされての煩悶。

それらが、彼女達が声を上げることとなった背景を理解する一助にはなるものの、
都度都度の流れが堰き止められる一因ともなっており、
善し悪しの手法だな、と
思いはする。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


とは言え、他社との競合を意識しつつ、
企業側からの恫喝を受けながらも
記事化に向け邁進する姿が胸に刺さる。

権力による不法行為の大きさも桁違いなら、
それを糾弾することで起こった世界的なムーブメントも
やはり発信地がアメリカならではのインパクト。