RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

空白@109シネマズ川崎  2021年9月23日(木)

本日初日。

席数118の【シアター3】は、一席空けての案内だと
実質70席弱。その八割ほどが埋まっている。

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売店での万引きの被害は甚大と聞く。
中にはそのために閉店や移転を余儀なくされるケースもあるらしく。

なので、自身が経営するスーパーで
女子中学生の万引きを見つけた『青柳(松坂桃李)』が、
彼女を追いかけたのは当然の行為。

唯一、想定外だったのは、それが原因で
彼女が飛び出し事故により亡くなってしまったこと。


娘の死を知らされた父親『添田古田新太)』は最初悲しみ、そして激昂し、
しかし見当違いの暴走を始める。

学校にはねじ込み、『青柳』にはストーカーまがいの付きまといをし、
車を運転していた女性が母親と謝りに来ても、徹底的に無視を決め込む。

自分の娘が万引きなど、との
根拠薄弱な思いや、よしんばしていたとしても学校でのいじめによるものとの
責任を他に転嫁する姿勢は、まるっきり共感はできず。

もっともそれは、自身が常日頃、娘と真摯に向き合って来なかった、
後ろめたさの裏返しかもしれない。


タイトルにもあるように心の空白を埋めるため
無軌道な行為を繰り返し、それが次第に周囲に悪影響を及ぼし出す。

加害者が被害者に、被害者が加害者に、
くるくると猫の目の様に、本作の登場人物達の立ち位置は入れ替わる。


無責任なマスコミも、それを助長。

センセーショナルな事件を常に消費し続けるため
文脈を意図的に捻じ曲げた映像を流し、
したり顔のコメンテーターはそれに同調。

その結果がどのような影響を及ぼすかも考えずに
数字を獲るためだけに作為を以って邁進する。


しかしあることをきっかけに『添田』の心情にも変化が訪れる。
描写的には軽くあるものの、それは自己の行為を正当化する理由付けを
根底から突き崩すもの。

が、決定的な証左を目の当たりにしても、傍若無人な半生を生きて来た彼が
すんなりと変われるはずも無く。

他方の『青柳』にも、落ち切った先から
這い上がる糧となる光明が。

それは強く励ましてくれたパートのおばちゃん『草加部(寺島しのぶ)』によるものではなく、
行きがかりの他人の何気ない一言。

必ずしも一方的な思いだけが
事態を好転させるわけではないとの、好事例にも見えるが。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆☆。


しかし、こうした救いの少ない中にも
幾人かの真っ当な人物は登場。

『青柳』の元妻『翔子(田畑智子)』であり、
一緒に漁船に乗る『龍馬(藤原季節)』。

共に取り返せない過去を糧に、
先のことを考える。

物語りの中の一服の清涼剤。


そしてまた、
事故を起こした車を運転していた女性の母親が、
哀しいかな多くの人間の右代表なのだろう。