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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

よだかの片想い@109シネマズ川崎 2022年9月23日(金)

本日初日。

席数118の【シアター3】の入りは二割ほど。

ただ一部劇場では、一週間前から先んじて上映されているようなので、
松井玲奈』ファンは、そちらで観ているかも。

 

 

島本理生』原作の映画化は
〔Red(2020年)〕が噴飯モノの内容だった以外は、
ナラタージュ(2017年)〕や〔ファーストラヴ (2021年)〕はなかなかの良作で、
勿論、監督や脚本に左右されようも、
三島有紀子』が、あれだけの駄作を撮るのは、正直、意外。

で、本作、どちらかと言えば上作の部類。
とりわけ主な登場人物を演じた『松井玲奈』と『中島歩』の出来が極めて良い。

松井玲奈』の方は、「NHK」の連続テレビ小説〔エール〕での好演で
意外とできる人と認識を改めていた。

それを凌駕する驚きだったのが『中島歩』のあまりにも素に近い演技。
何故か、自分の過去に観た映画ではチョイ役が多く
まるっきり印象に残っていなかったのだが、
今回の成りきり具合には、相当に驚愕。
ちょっと身勝手な男の造形を、てらいも無く、ストレートに演じている。


『アイコ』は生まれつき、左の頬に大きな痣がある。
幼い頃は母親主導で治療にもいどんだものの、
長じてもそれは大きくもちいさくもならず、変わらず彼女に顔に在る。

そのことが、人間関係にどのような影響を及ぼしているかは不明だが、
その痣と一生付き合っていく決意をした本人は思いの外超然とし、
却って周囲がそのことを気遣うほど。

自身は望みはしないものの、
顔に厳然と在る痣の存在を、
他人には肯定もして欲しくないし否定もして欲しくない。
要はあるがままの姿を見て貰いたい。

この構造は頗る面白く、本人と周囲が夫々、
気にしない×気にしない
気にしない×気にする
気にする×気にしない
気にする×気にする
の関係性が出たり引っ込んだりしながら、
ストーリーに膾炙する。

とは言え、その痣を主軸にしたルポルタージュ本が刊行され、
それを底本に映画化を望む監督『飛坂』と付き合うことになったのだから、
あながち負の側面ばかりとは言えず。


が、『飛坂』は、端正な外見とソフトな物腰、
知的な会話から知れるように所謂モテ男。
にもかかわらず、女性の影がチラつかないのは、
単純に映画馬鹿で、それに命を掛けているから。

『アイコ』は彼が自分と付き合いだしたのは、映画作成の肥やしにするためでは、と
次第に疑念を持ち始める。


本作では「痣」が一種の狂言廻しで、重要なパーツ。
その存在を外してしまえば、実体はどこにでもある恋愛ものと
プロットは変わらず。

ひょんなことから出会った男女が付き合い始めるも、
次第に疑いが芽生えて別離、しかしその後で
女性(若しくは男性)が人間的に成長する、との。

ここでもその定石は踏襲され、しかしあかつきに得られた、生きて行くための自信は
すかっとするほど爽やかだ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


「痣」の存在を際立たせるパーツとして、
ここでは鏡が多用される。

『アイコ』の顔が映る毎に、
存在が強く主張されるものの、
その表情は驚くほど多弁。

とりわけ、『飛坂』から貰ったコンパクトを
パチンと閉じるシーンは極めて印象的。