RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

異動辞令は音楽隊!@TOHOシネマズ日比谷 2022年8月28日(日)

封切り三日目。

席数120の【SCREEN8】はほぼほぼ満席。

 

 

けして「貴種」とは言えないけれど、
これも一つの「流離譚」。

実績はあるものの、捜査現場で傍若無人に振る舞い過ぎた刑事が、
それを咎められ、左遷の憂き目に遭う。

流される先は、180°畑違いの音楽隊。
加えて隊員たちのほとんどは、兼務ばかりでヤル気も皆無。

が、主人公が加わったことで、
自身も変われば組織も変わる。
共に長足の進化を遂げ大団円となる一部始終。


しかしそこに至るまでの道程は、
当然の様に平坦ではなく、山あり谷あり。
度毎に観客は、時に義憤を感じ、笑い、そして涙する。

ここには映画の肝心な三要素、
笑わせ泣かせ握らせる(手に汗を)の全てが詰まっている。

さほど期待しないで観に行ったものの、
望外の収穫と断じてしまう。


「貴種」でない理由は、もう主人公の見た目から明らか。

刑事生活三十年の成れの果て、
時代遅れのフォルムの眼鏡に無精髭、
衣服もマル暴の人と見紛うばかりのファンキーさ。

私生活でも仕事一徹の態度に妻子から愛想をつかされ、
数年前に離婚を言い渡される始末。
それでも不憫に思い何くれと気にかけてくれる高校生の娘なのに
大事な約束を忘れることさえありがち。


そんな『成瀬(阿部寛)』のモチベーションは那辺に有りや。
社会正義の行使か、それとも成果を挙げることが単純に嬉しいのか。

自分の見るところではおそらく後者。
子供のまま、大人に成りきれない人間にありがちなタイプ。

気に入らないことや、思い通りに行かないことを
所構わず怒鳴り散らし我儘に振る舞うのはその証左。


そんな彼を変えるのが、一つ音楽のチカラとは
ありがちなプロット。

触媒となる婦警の『来島(清野菜名)』の存在は効果的も
やや性急過ぎる変化には少々眉に唾を付けたくなる。

また、連続アポ電強盗の事件終結に至る経緯も、
背景描写が全く無く、かなり杜撰な造り。


それでも、齢五十になってまだ変わることができる余地の提示と、
一人の良化が周囲をさえ幸せにして行く流れは観ていて心地良い。

音楽映画に外れナシとの想いを
改めて強く持つ。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


それにしても『阿部寛』は不思議な俳優だ。

役柄が変わっても口跡は変わらず、
何を演っても、同じに聞こえてしまう。

それでいて、芯から発散する空気は
きちんとその者を体現している。

彼が変わったのは、共に2008年の
〔歩いても歩いても〕〔青い鳥〕あたりからとの認識。

読モの嚆矢で、最初は馬鹿にしていたけど、
随分と良い役者の成り切ったもの。

でも、自身が変わり努力が報われる帰結って、
本作のプロットに似ている?