封切り二日目。
席数89の【シアター8】の入りは五割ほど。
共に才気あふれる男女が出会い
一瞬で恋に落ちる。
最初は互いに高めあっていたものの
次第に一方の才能が他方を圧倒しだし
やがて二人の間に隙間風が吹き始める。
過去から幾度となく取り上げられて来たプロットであり、
ここでも同様に繰り返される。
が、極めて異色なのは、
冒頭シークエンスとタイトルロールの時間だけで
テンポ良くそこまでをほぼほぼ語り尽くしてしまう点で、
おいおいこの先の尺でいったいどう展開していくのよ?と
不安にかられながら画面を注視する。
本作の真骨頂はまさにここから。
ややネタばれになってしまうも、
売れっ子作家の『ラファエル(フランソワ・シヴィル)』がある日目を覚ますと
自身はしがない中学教師になっており、
妻の『オリヴィア(ジョセフィーヌ・ジャピ)』は高名なピアニストにと
そこはまるっきり今までとは逆の境遇世界。
加えて二人は全くの赤の他人状態で
『オリヴィア』は彼のことを知りもしない。
元の世界同様に彼女の愛を取り戻したい『ラファエル』。
親友の『フェリックス』の力を借り奮闘するうちに互いの距離は近づき、
やがて今までの世界に帰れるかもしれないヒントも得る。
果たして主人公は無事に過去居た世界に戻れるのか、と
観客の側は期待するのだが、
ここで製作者サイドは捻りに捻った展開に持ち込む。
自分の才能が開花し、もてはやされてはいるものの、
『オリヴィア』との愛情が冷めつつある過去と、
自身は鳴かず飛ばずでも、彼女との細やかな愛情が続いていることの
どちらがより幸福で、彼の本当に求めているものだろうか、と。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
のっけから{サイバーパンク}的なシーンが展開され
鬼面人を驚かす流れも計算づく。
このエピソードが、あとあと生きて来る巧みな造り。
また、パラレルワールドの要素も重くならぬ程度に取り込んで、
全体にスパイスを効かせている。
異色な構成ではあるものの、
核の部分では極めて王道の筋立てで、
最後のシークエンスでの選択には
思わず喝采を贈りたくなる。
それほど心が暖かくなる、
素晴らしいエンディング。