RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

哀愁しんでれら@109シネマズ川崎  2021年2月6日(土)

封切り二日目。

席数172の【シアター4】の入りは一割弱。

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TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2016」のグランプり受賞作と聞いている。

同企画から過去に映像化された作品は
嘘を愛する女(2015/2018)〕
〔ブルーアワーにぶっ飛ばす(2016/2019)〕
ルームロンダリング(2015/2018)〕
〔水上のフライト(2017/2020)〕
〔ゴーストマスター(2016/2019)〕
〔裏アカ(2015/2020)〕
そして本作。
※(受賞年/映画化年)

うち二本は未見も、共通して挙げられるのは
脚本の練り込み不足。

構成されるパーツが浅薄で、
人物造形に膨らみが無いので
全体的にぺらぺらな物語りに収斂する辛さ。

ましてや今回の監督の『渡部亮平』は
3月のライオン〕は兎も角、
ビブリア古書堂の事件手帖〕〔麻雀放浪記2020〕の脚本担当。

かなりの不安を抱えつつ、一方で
所謂、デキル人である『土屋太鳳』の演技も観たくて劇場に向かう。


市役所の児童福祉課に勤める『小春』は
日頃から母親にネグレクトされたり虐待を受けている子供を多く目にし、
しかし、自分にできることは限られ、やりきれない思いを持っている。

その彼女自身も、幼い頃に母親が突然家を出て行ったことが
今でもトラウマに。


そんなある日のこと。夕餉も終わり、父親の晩酌に付き合っていると、
同居する祖父が突然に風呂で倒れ、
慌てて自家用車で病院に運ぶ途中に事故ってしまい、
運転していた父親は飲酒運転で逮捕、
取るものも取り敢えず家に戻ると
家業の自転車店は失火で炎に包まれており、消火後あてどなく十年来の恋人を尋ねると、
なんとびっくり職場の先輩と不倫の真っ最中。

一夜にして全てを失う不幸のドミノ倒しの連鎖。
よくまぁこれだけをことを考え付き、冒頭の十数分に押し込めたなと、
先ずは感心。


しかしその後の彼女はと言えば、捨てる神あれば拾う神あり。

警報が鳴り、遮断機の下りた踏切で
一人の男を助けたら、それが個人病院の経営者。

礼をしたいからと名刺を渡され、
以降は有り勝ちな流れに。

まぁここで、「救急車呼べよ」とか「緊急停止ボタン押せよ」との
突っ込みはあるものの、気が動転していたから、とか
それが無いと話が進まないよね、との思惑もあり、まぁまぁ善しとしておこう。


知り合った開業医の『大悟(田中圭)』は妻に先立たれ
八歳の娘を独りで育てるシングルファーザー。

気立ての良い『小春』を気に入り、娘の母親も必要と思っていたことから
とんとん拍子に話は進み、結婚へ。

瀟洒な屋敷で専業主婦となり、
夫と娘にも囲まれ、幸せを享受するはずだったのに、ところが
オハナシは予想だにしなかった転調を迎える。


ここで『小春』の過去はまだしも、
『大悟』も幼い頃に辛い体験をしたことはおいおい語られれるも、
そのエピソードはどうにも弱い。

それだけであの人格が構成されるとしたら、
世間の人々はほぼほぼサイコパスになっちゃうんじゃ?と。

娘の『ヒカリ』の行動についても同様で。
甘やかされて育ったからとか、母性の喪失があったとしても
なかなか理解に苦しむ性格の造形。


加えてタイトルに捕われ過ぎた映像や科白の数々。
無理に持ち出さなくても十分に意図は伝わるのに、
却って違和感を醸す結果に陥っている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


求められる母性と現実とのギャップに苦しむ主人公の描写は鬼気迫るものがありつつ
追い詰められていく過程のエピソードがどうにも軽め。

『大悟』が娘を過度に溺愛する様子も含め、
何れも過去体験から善き親であろうと自らを追い込んでしまう成り行きは共通ながら
やはり唐突さを感じてしまう。


「モンペア」のハナシなのか
虐待の与える影響の提起なのか、それとも
純粋にサイコスリラーを目指したのか。

人物造形の軽さに加え、そもそもの設定が曖昧なのも
他の受賞作と同様に気に掛かるところ。