封切り四日目。
席数172の【SCREEN1】の入りは八割ほど。
客層はやはり『ドヌーヴ』好きと思われる高齢者にかなり振れている。
『カトリーヌ・ドヌーヴ』の主なフィルモグラフィーを追ってみる。
〔シェルブールの雨傘〕の時、21歳。
小鹿のようなしなやかさと、瑞々しい美しさ。
〔赤いブーツの女〕では31歳。
すっぽんぽんになるのだが、公開当時の日本はヘア非解禁。
でも、映倫の人達は見れたんだよなぁ、って羨ましく思う。
37歳の時に〔終電車〕で「セザール賞」。
そのスター性の割には、随分と遅い受賞だったかと。
そして現在、75歳。
彼女の経歴自体が、本作の主人公『ファビエンヌ』の履歴設定と
かなり重なっているのが見て取れる。
往年の大女優が回顧録を出版する。
それを祝うため、アメリカに離れて暮らす娘一家がパリにやって来る。
しかし、本の中身を読んだ娘の『リュミール(ジュリエット・ビノシュ)』は
「事実と違う」と母親に食って掛かる。
対して、女優なんてもともと虚構の世界に棲むモノと、
『ファビエンヌ』は取り合わない。
が、それ以外にも、書かれている内容は周囲にさざ波の如く波紋を広げて行く。
「家族」をテーマに作品を撮り続けて来た『是枝裕和』監督が
また新たに家族の類型を提示する。
ではあるものの、描かれるエピソードの多くは、
エキセントリックな主人公の性格を除けば、
かなり普遍的に見られるもの。
誰だって外向きには良い恰好をしたいし、
自分が長じれば親の過去の言動が理解できもする、
同じように子に接していたりとか。
自身の記憶を美化し失敗を糊塗するのもままあること。
思い違いも含めて他人から指摘され
「あれ!そうだった?」と思い直すこともしばしばで。
諍いのタネが幾つか拡散し、やがて一つ一つに説明が付けられ
次第に収斂する。
思考法と同一の過程を辿り、最後は人間らしい賛歌が奏でられ
観客も安らぎを得る。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。
作品は印象的なタイトル付与を宿命づけられてはいるものの、
「真実」なる大げさな表現は、本作の中身からすると重すぎ。
実態はかなり軽めで{ファミリームービー}にさえ近いのだから。