封切り二日目。
席数101の【シアター8】は満員の盛況。
多くの人命を救ったことで「英雄」として祭り上げられた人物が一転、
司直やマスコミの手で犯罪者に貶められてしまう。
その後、主人公に共感する人物と共に戦い、再び名誉を回復する。
三年前に〔ハドソン川の奇跡〕を監督したばかりの『クリント・イーストウッド』が
類似のテーマで再び米国の暗部を世に問う。
しかし両作の間にはかなり大きな隔たりがある。
前者の主人公は航空機のパイロットで高学歴且つ高収入。
自身の行為の確からしさに悩みはするものの、
理論的な考証で自己弁護が出来もする。
一方本作のタイトルにもなっている『リチャード・ジュエル』は
税金すら滞納するどちらかと言えばプアホワイト。
物語りは1996年の「アトランタ五輪」が舞台だけれど
世が世なら『ドナルド・トランプ』に喜んで投票するだろう階層。
オマケにその肥満した外見や、一見魯鈍にも見える話し方も偏見に輪を掛けるし、
国家に貢献したいと願い、権力に従順な個人的信条すら、
悪意が入り込み易い要素になっている。
何処までが事実による描写なのかは判らない。
例えば直近の『カルロス・ゴーン』の逃亡劇を報じる際にも度々引き合いに出される
「ミランダ警告」を端折るマネを連邦捜査局がするのか、とか。
一方で証拠も無いのにプロファイリングに当てはまるからと
執拗な調査対象にしたことは事実の様だし、
マスコミの報道姿勢については言わずもがな、
観ていて義憤を覚えるほど。
もっともセンセショーナリズムに踊らされるのは
洋の東西、古今でも共通、自分のことを棚に上げてあしざまに非難の目で見るのは
天に唾する気にもなりはする。
評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。
エンドロールを見ていたら
『レオナルド・ディカプリオ』が製作者としてクレジットされており、
どうやら最初は彼も出演予定だった様子。
それ以外にも役者は変遷し監督候補も幾つか挙がったようだけど
最終的に引き受けてこれだけの力作に仕上げた『イーストウッド』は
本年で九十歳だというのに
まだまだその手腕が衰えることはなし。