RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

すばらしき世界@TOHOシネマズ川崎  2021年2月11日(木)

本日初日。

席数142の【SCREEN1】の入りは三割ほど。

f:id:jyn1:20210212072920j:plain


佐木隆三』と言えば既に物故者ではあるものの
ノンフィクション小説の泰斗。

ルポルタージュを基に人物像を膨らませ
スリリングな展開も堂に入ったもので
自分も何冊かを読んでいる。

本編はその中の〔身分帳〕を原作にしていると聞くが
刊行は1990年。

暴対法や各地の条例は以降のことながら、
作中ではそれらに関連する表現も見られ、
監督・脚本の『西川美和』がお話を創り込む過程で適宜取り入れたのだろうかと。

主人公の言動を変える要素として上手く機能もしており、
何れにしても〔ディア・ドクター〕しかり〔夢売るふたり〕しかり、
社会から外れた人物をモチーフにさせると
絶品の冴えを見せるのは間違いのないところ。


殺人罪による十三年の刑期を終え出所した『三上(役所広司)』が
今度こそは真っ当に生きようと荒波に揉まれながらも
自立に向け奮闘する姿を描く。

しかし、それを阻むのは、世間の目や法制度も当然ながら、
当人のあまりにも真っ直ぐな気性、とりわけ不正義を目にし頭に血が上った時に
思わず手が出てしまう喧嘩早さも大きい。

年齢の割にはなまじ腕っぷしが強いものだから
過剰に反応してしまうことでの反作用。


一方で彼の裏表のない性格に好感を持ち、
何くれとなく世話を焼く何人かも登場。

彼等・彼女等は一服の清涼剤的位置付けで、
その存在が無ければ、物語りは随分と殺伐とした流れになってしまったろう。


中でも映像作家の『津乃田(仲野太賀)』の立ち位置はとりわけ出色。

『三上』から提供された資料を基に、
主人公の生い立ちや性格を要領良く紹介する
ある種狂言回し的役割も負わされてはいるのだが、
その語り口の仕方がどうにも巧いなぁ、流石『西川美和』と
舌を巻いてしまう具合。

周囲の善意に解きほぐされ、頑な主人公の心根が僅かずつ変化する、
その過程でメルクマーク的に挿入されるエピソードの数々もまた磨き抜かれて素晴らしい。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


とは言え、このエンディングは、賛否別れる流れ。

余韻を残しているとも、世の無常とも取れてしまう。