RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

サンドラの小さな家@109シネマズ川崎  2021年4月3日(土)

封切り二日目。

席数89の【シアター9】の入りは五割ほど。

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DVの夫から逃げ出し
幼い二人の娘とホテルに仮住まいする『サンドラ(クレア・ダン)』。

パブと家政婦の仕事を掛け持ちし
独楽鼠のように働くも、暮らしは楽ではない。

特に前者の店主からは辛く当たられ、
ホテルではロビーを通ることすら許されぬ理不尽な仕打ち。

本来ならあてにできる行政も、
木で鼻を括るたような対応、
頼れる知己もおらぬ孤立無援の状態。


そんな彼女がある日目にしたNetの情報。
土地さえあれば格安で小さいながらも自分の家を建てられるという。

試算を繰り返し、お役所にも談判に向かうが
どうにもつれない返事。

しかし救う神もこれありで
手を差し伸べる人も現れ、主人公は家造りに邁進する。


ここで『サンドラ』が発揮する人間力が素晴らしい。

少しでも望みがありそうな周囲の人達に声を掛け、
週末ボランティアを募り、次々と巻き込んでいく。

勿論、オハナシならではご都合主義もあるけれど、
賛同して輪に加わる人々も
特に何の得にもならないし、時には諍いをしながらも
彼女の夢に真摯に向き合う。


「情けは人の為ならず」の誤用は、
自分が高校生くらいの時にはもう社会に広まっていたとの記憶。

しかしここでの登場人物達は我がことのように
主人公に向き合う。

この心根が美しく、気持ちが洗われるような清々しさ。


波風ありながらの結末はある程度予想できるもの。
しかし、その後には希望も示される。

また、中途起こされる裁判に臨む際の『サンドラ』は
外に出るときには隠してきた左目下の痣をさらけ出し
まさにタイトルの〔Herself〕が示す
自分らしさを前面に押し立てた毅然とした態度で向かい、
思わず喝采を贈りたくなる。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


主演の『クレア・ダン』は原案と脚本も担い奮闘。

硬直化した社会福祉への異議申し立てと、
自身を押し殺して生きる数多の『サンドラ』へのエールと
強いメッセージ性を感じる。

絕対~zet-tai~@UNPEL GALLERY 2021年3月28日(日)

『土井沙織×土田翔』の二人展は
共に「東北芸術工科大学」卒業との共通点があるよう。

同館での”春立つ-大学日本画展”の第三弾の位置づけ。

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プロフィールを確認すると
『土井沙織』の作品は過去に数ヵ所で観ているハズで
うっすらと記憶にもアリ。

なので、あら、こんな絵を描く人だったかしら、と
思ったり。


『土田翔』の作品は故郷の山を描いたもので
解説を読むと雪解けの頃に「種まきうさぎ」の雪形が現れるよう。

でもこうした、春の訪れと農期の始まりを告げる雪形って
意外と各地の伝承にあるのよね。
一つ「吾妻小富士」だけにとどまらず。


会期は~4月4日(日)まで。


全線運転再開1周年記念 常磐線展@鉄道歴史展示室 2021年3月28日(日)

東日本大震災」の影響で
九年に渡り不通になっていた「常磐線」が2020年3月14日に全線で運転を再開。

ニュースでも取り上げられていたことを思い出す。

それから更に一年を経ての本展の開催は
たぶん「コロナ禍」の為に遅れたから?

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展示内容はパネル、写真とその他鉄道グッズも
どちらかと言えばパネル類による解説多し。

そもそもの歴史から説き起こし
最新の状況まで。

首都圏に住んでいてもあまり身近じゃないなと感じていたけど、
「千代田線」と乗り入れだったね。

そう言えば「スーパーひたち」も
随分と前に一度だけ乗ったことあったかも。


会期は~6月27日(日)まで。

アネックス展2021–自動と構成–@ポーラ ミュージアム アネックス 2021年3月28日(日)

標題館でも事前予約制は取りやめになったよう。

それでもエレベーターを降り入り口前に立てば
受付のおねえさんがやって来て
検温と手指の消毒。

当日は荒天の中の
ちょっとした降雨の隙間を突いて来たんだが、
さすがに来場者は多くない。

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展示されている四名の中では
『花房(鈴木) 紗也香』の作品は
過去に観た記憶があるもの。

遠近が省略されたようにぺたんとした表現。
二次元と三次元が混交した不思議な空間認識。

鮮やかな色みも相俟って、
異世界に攫われたかのような感覚。


『倉和範』の作品は
トマソン」で言うところの「純粋階段」が三つ置かれ
三段を上がった先には夫々にディスプレイ。

思わせぶりな文言が書かれてはいるも、
階段の前には大きな金属輪がぶら下がっているので
身を屈めねばならぬ。

その所作を含め、一連の作品とのことかな。

オノ・ヨーコ』の「YES」を思い出したりもするんだが。


会期は~4月18日(日)まで。

ノマドランド@TOHOシネマズ日比谷  2021年3月28日(日)

封切り三日目。

席数489の【SCREEN12】の入りは六割ほど。

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劇中で主人公を演じた『フランシス・マクドーマンド』は
制作者としても名を連ね、
本作は彼女の強い思いにより生み出された一本と判る。

ノンフィクションを底本としているとのことだが、
作りそのものは{ロードムービー}よりも{ドキュメンタリー}に近いテイスト。

カメラはぴったりと『ファーン』に寄り添い、
周囲の人々も併せ、現代の遷ろう民の実態を描き出す。

出演者にも、実際の「ノマド」がかなり含まれているよう。
科白も極々自然で演技をしているとも思えぬほど。

彼等彼女等の吐露する言葉は、一種
諦観にも似た響きを持つ。


しかしこういった一群の人々は、
彼の国では過去からも存在した。
それを扱った名作も数多。

移動の手段は時代に応じて変わっており、
RVでとはイマっぽいが。

覚えている限りでは、
1930年代の「浮浪者(ホーボー)」を題材にした〔北国の帝王(1973年)〕、
そして
1910年代の「季節労働者」の姿を描いた〔天国の日々(1978年)〕。

特に後者は『ネストール・アルメンドロス』によるカメラが素晴らしく、
撮影が秀逸な本作と近しい匂いを感じてしまう。


ここに登場する「ノマド」達も、「季節労働者」に近しい部分があるかも。

クリスマスシーズンになれば「Amazon」の配送センターに集い仕事をし、
それが終われば別の職を求めて散り散りに、
また来年と去って行く。

次の年に現れないのは、どこかしらに安住の場所を見つけたのか、
それとも途上で倒れてしまったのか。

後者であれば知己はそれを弔い、前者であれば言祝ぐだろう。

袖触れあうも他生の縁程度の淡いかかわりに見えても、
同じ境遇を生きる者同士、魂の部分では深く繋がっている。


物語りは取り立てての盛り上がりも無く進行。

次第に主人公の過去も明らかになり、
彼女に思いを寄せる人間も現れる。

心も体も安らげる場所の提供をオファーされた時に
『ファーン』はどのような判断を下すのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


RVで広い国中を移動し、
時に金に困り、時にカラダの不調を得、
厳しい暮らしと引き換えに、精神は自由を得る。

傍目には悲惨な環境も、
それだけにとどまらぬサムシングがある。

やむない選択肢のケースもあれば
自身から選んで身を置く場合もあるだろう。

 

 

騙し絵の牙@109シネマズ川崎  2021年3月27日(土)

封切り二日目。

席数246の【シアター1】の入りは五割ほど。

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昨年映画化され話題になった〔罪の声〕原作者の『塩田武士』が
大泉洋』を主人公に当て書きした小説の映像化。

なるほど雑誌の編集長が役どころの彼の随分と飄々とした空気は、
まんま自身を体現しているようにも見える。

頼りなさげな風貌なのに、時としてリーダーシップを発揮したリ、
策士のようでもありつつ抜け落ちあり、
恩顧を平気で裏切るかと思えば小さなしがらみに囚われたり
背反さが際立つ『速水』の造形。

しかし行動指針は明確。
自分の面白いことをやる、
やるからには何かを変える、とのスタンス。
編集者よりも稀代のプロデユーサーとしての貌。
一つ紙媒体や、一企業に留まらず、社会を変革したいとの思いも
ありやなしや。

が、それもどこまでが本音なのか。
鰻の様に掴みどころがないとは
まさに彼の為にある様な言葉。


その対極として、新人編集者の『高野恵(松岡茉優)』が存在。
町の本屋の娘である出自もあり、根っからの活字馬鹿。

その想い入れの強さは、小説の聖地巡礼を繰り返すほど。

作家とタッグを組み、より良い作品に昇華させたいとの
熱い気迫が奇跡を生む。


一方でやり玉に挙がるのは、文壇の閉じた世界や出版界の因習。
忖度が渦巻き、変えさせないための力学の数々がそこかしこに蔓延る。
意気に燃えていた新入社員も次第にそれらを目の当たりに摩耗する。

または社内の権力闘争もしかり。
一族による経営や情実の人事は旧弊に過ぎ、
出る杭は打たれる始末。


例によって予告編は{コンゲーム}の側面を見せてはいるけれど、
全体の流れはミステリーや企業の内幕モノに近い印象。

騙し騙され、出し抜き出し抜かれの繰り返しは
勧善懲悪とは違った、やや複雑さを孕む。

くるくると猫の目のように変わる展開は、
先読みができない上に、斬新さにも満ちている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


しかし本作の芯にしっかりと据えられているのは
溢れるほどの活字愛。

デジタル全盛の昨今でも
まだまだ紙文化は死んでいないぜ、との
力強いエール。

それは最後のシークエンスで顕著に現れ。

コンテンツに重要な三要素、
「新規性」「独自性」「継続性」を満たしていれば
伝える手段は旧来の媒体でも、十分にそのチカラがある。

森岡書店​銀座店」が体現している売り方の仕掛けがその好例。
本編の先のシーンは、同店にインスパイアされたんじゃ、と
思わぬでもない。

 

ミナリ@TOHOシネマズ川崎  2021年3月20日(土)

封切り二日目。

席数158の【SCREEN3】の入りは七割ほど。

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現時点での「IMDb」での評価は7.7、
「Metascore」は88。
どちらかと言えば、評論家筋の受けが良いよう。

多くの賞レースにもノミネート、或いは
受賞もしている。


かし観終わって思わず首を傾げてしまう。

確かに感動はするのだけれど、
根っこにあるのは過去から幾度も繰り返されて来た物語り。

そこまでの賞賛に値するのか、と。

「縦のものを横にしてみる」
「ものとものをつなげてみる」
「違うところに置いてみる」
は新しい価値を生み出す時の要諦。

うちの幾つかを援用した本作に限っては
既視感の方が斬新さを上回る。


時は『ロナルド・レーガン』が大統領であった1980年代。

アーカンソー州の片田舎の耕作放棄地へ
韓国系移民の一家が越して来る。

夫はそこで一旗揚げようと目論むも、
妻はそれには懐疑的。

活発な長女に対し、長男は心臓に持病がありと
家庭内でも問題を抱えている。

また次第に分かって来るのは、
その農地が曰く付きの場所であることや
夫が母国を捨てたことの経緯。

そしてそれらは何れも、一家にとっては負の要素。


雛の雄雌の選別作業と合わせ
農業の負荷が増大するに伴い、
ベビーシッター宜しく、妻の母が韓国から呼び寄せられ、
これが一つの転換点。

タイトルの「ミナリ」は日本原産の芹の韓国での呼称。
食べては勿論、薬効もあるので、重宝されているらしい。

外来植物の種を勝手に持ち込んでイイの?との
疑念はありつつ、適地を選んで祖母が種を撒いたことが
あとあとの展開に効いて来る。


思うに任せない農地の経営とは裏腹に、
一家を受け入れた地元民の眼差しは優しい。

教会に集う人々を始め、農作業をアシストしてくれる人、
鑑別場で出会う人々。

個人的にはこの部分が決定的に違和感も、
鑑賞後に調べてみると『レーガン』時代ならではの背景は確かにあったよう。

それでも、これほどの田舎町。
黄色人種への偏見はホントになかったの?とはかなりの疑問。

一方の韓国は『全斗煥』による軍事独裁政権下。
主人公達が故国を去ったことについては得心が行くもの。


幾つもの試練が訪れ、それを乗り越えようとあがく一家。

度毎に試されるのは家族の絆で、
その先に果たして光明は見えるのか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


とは言え先にも書いた様に
古今東西で同様のモチーフは繰り返し語られて来た。
目新しさの点では今一つ。

しかし開拓精神が旺盛な米国では、設定を変えての再生産でも、
とりわけ好まれる筋立てなのかもしれない。

特に多様性が喧伝される今の時代においては、
本作に組み込まれた要素設定は
尚更ウケが良いだろうと感じてしまうのは
やや斜に構え過ぎだろうか。