RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

まともじゃないのは君も一緒@TOHOシネマズ川崎  2021年3月20日(土)

封切り二日目。

席数112の【SCREEN8】の入りは六割ほど。
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「フツー」って何?

「RDB」やら「食べログ」やらで
「チャーシューとメンマは普通」なる書き込みがあると
なんだかもやっとした気持ちになる。

それに「イイネ」や「役に立った」が多く付き
加えて「チャーシューとメンマは普通だったのですね」などの
コメントが付くと尚更。


でもそれは映画のレビューでも同様か。

「普通に面白かった」等と書かれていても
どう判断して良いか迷ってしまうのは、
自分が本作の主人公『大野(成田凌)』に近しい人間だからか(笑)。


ここでは四様の、所謂「普通」が展開される。

純粋数学に邁進した結果、世間の常識からはちと外れてしまっている
予備校講師『大野』の「普通」。

その生徒であり、イマドキのJKを体現しながらも
仲間からはやや遊離した立ち位置の『香住(清原果耶)』の「普通」。

『香住』の憧れの存在であるベンチャー企業の社長『宮本(小泉孝太郎)』は
講演で空虚な言葉を並べつつ、近寄って来る女性にはアバンチュールを求め、
しかし相手が女子高生だと知ると一気に萎えてしまう身勝手な男。
そんな彼の「普通」。

婚約者の『美奈子(泉里香)』は、『宮本』の素行を知りながら
自身のの父親との関係性もあり、本来望む暮らしに程遠いながらも
忍従を受け入れる。彼女の悲しい「普通」。

一概にどれが正しいどれが正しくないと言えないけれど、
『大野』の「普通」に対して『香住』が異議を申し立てたことで
てんやわんやが巻き起こる。


オハナシの展開は勿論乍ら、本編での白眉は
その会話にあり。

速射砲宜しく一方的にまくしたてる『香住』の口跡は
1970年代の『ウディ・アレン』のよう。

なので会話はなかなかかみ合わない。
君こそ、ヒトのハナシを聞いてないよねって(笑)。

受けて立つ『大野』もやはり
早口で自身の常識を切々と訴え、丁々発止のやり取り。
カメラはこれを、かなりの長廻しで一気に撮り切る。

役者のスキルと、制作サイドの忍耐が試される場面も
主役の二人は危なげないやり取りで
それに見事に応えて見せる。

また、その会話自体が面白く
劇場内は哄笑が渦巻く。

互いの「普通」を
前面に押し立てているだけなのに。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


なので今回の一番の手柄は『清原果耶』の起用。

その可愛らしさは半端なく、もうたいていのおぢさんなら
間違いなく入れ込んでしまうところ。

自分のホントの気持ちに突然に気付いた時の表情。
その後のやるせない感情を酔っ払い宜しくぶつけている時の演技。

観ていて、もう、萌え~っとするんですけど。


3月のライオン(2017年)〕の時から注視はしていたものの、
特に昨年公開分からの映画ではノリノリの状態。

あと四~五年は、等身大の役柄で
十分にやって行けるよね。

更に大成できるかは、その後の五年が勝負なのだけど。

 

 

伊藤安鐘展@ガーディアン・ガーデン 2021年3月13日(土)

”第22回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展”。

「眼(まなこ)開きて尚、現(うつつ)を見ず」とのタイトルが付されている。

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当日はご本人も滞廊、
知己の方たちと話しておられた。


撮られている写真の場所は、おそらく
作者の故郷とプロフィールにある岩手県の海岸線と思われ。

それが自身の目で見たものと、傍から見たものの境界が曖昧な視点で切り取られている。


しかし、このような情景の体験は自分にも同じようにある。

松林を抜けた先にしだいに見えて来る海などは
その最たるもの。

それほどに記憶を刺激する作品の数々。


会期は~3月27日(土)まで。


アウトポスト@チネチッタ川崎  2021年3月14日(日)

封切り三日目。

席数191の【CINE10】の入りは五割ほど。

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2000年代に入ってからも
アフガニスタン紛争」「イラク戦争」「対ISIL戦争」と
アメリカが関与した戦争は打つ続き、
何れもイスラム圏なのが特徴的。

なのでそれらを題にした小説/ルポルタージュ、更には
原作にした映画も続々と制作される。


しかし大昔の戦争映画とは異なり
一方的にアメリカ軍礼賛で終わらないのは特徴的。

部隊内での連帯や相手勢力への抵抗を描きつつも、
どうしようもない虚無感が残る作品が多く、
本作もその一つに列せられる。


「キーティング前哨基地」はパキスタンアフガニスタンを結ぶ要路に位置し、
一方で周辺住民との融和を図ることも、存在し維持される理由の一つ。

が、地勢的には圧倒的に不利な面が。
三方を険峻な山に囲まれ、攻めるに易く、守るには困難な地形。

「なんでこんな場所に基地を造ったのよ」との不満は
劇中での会話も、
鑑賞者はよりその想いを強く持つ。

軍事化の立てる戦略は、時として
一般人はおろか末端の兵士にも理解不能なケースがあるのは
繰り返し取り上げられて来たところ。

勿論、それが招く惨劇についても。


少数のタリバン兵による襲撃のうちはまだよかった
(それでも死傷者は出ていたのだが)。

が、敵が大挙して押し寄せて来た時に
泥沼の戦いが発生する。


緊張感が打ち続く日々の中でも
兵士たちの会話はユーモアに満ちたもの。

いざの時は一蓮托生であり、そのためには
関係を円滑に持つことの重要さを誰もが弁えている。


小さな波が時としてあり、一方で束の間の平穏もあり、
最後には大波が押し寄せる。

その緩急を付けた描写が巧い。

観客は最後の最後に一山来ることは判っているのだから
それまでにどれだけ気分を高揚させられるか。


リアルな戦闘シーンに付いては当然のこと。

そこで繰り広げられる人間模様も。
勇気を奮い戦友を救いに向かう決死のシーンには
観ていて拳をぎゅっと握りしめてしまう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


しかし本作での白眉は本編終了後にある、
当事者達のにインタビューした映像が
エンドロール時も併せて流される。

そこで語られる中身のやるせなさと言ったら・・・・。


更なる驚きは、実際に戦場にいた当人が
自身役で出演を果たしていたことで。

その目論見は、〔15時17分、パリ行き〕とは異なり
まるっきりの成功裏に終わっているのだが、
その胸の内に去来する思いはどのようなものであったろうか?

すくってごらん@TOHOシネマズ日比谷  2021年3月12日(土)

封切り二日目。

席数98の【SCREEN6】の入りは六割ほど。

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大まかには{ミュージカル}にカテゴライズされようか。
それにしてはダンスシーンはタップが少々だけと
やや寂しい気もするのだが。

とは言え、監督の『真壁幸紀』始め制作サイドは
それらしいこだわりを随所に詰め込む。


一つは上映時間92分の尺。

これは
雨に唄えば(1952年)〕103分
イースター・パレード(1948年)〕107分
〔バンド・ワゴン(1953年)〕112分
などの昔の名作の短尺に倣ったものだろう。

サイレント時代を描いた
〔アーティスト(2011年)〕も100分だったし。

一方で
ラ・ラ・ランド(2016年)〕128分
〔ウエスト・サイド・ストーリー(1961年)〕152分
だったりするのよね。


もう一つはインターミッション。

舞台の{ミュージカル}はほぼほぼ二部建てで
中途、幕間が挟まれるお約束。

それをきっちり踏襲し、
「休憩」を挟み込んだのには笑った笑った。

一見、意味不明なシーンに見えて、
実際は形式をちゃんと押さえて全体を構成しようとの試みは
意気にも感ずる。


そうしたカタチを先ずは整えたうえで
展開されるのは昔ながらの「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語り。

上司との諍いで奈良県大和郡山市に左遷されたエリート銀行員『香芝誠(尾上松也)』が
金魚すくい屋の娘『吉乃(百田夏菜子)』に一目惚れし・・・・、
との成り行き。

朴念仁の『誠』が恋に目覚めたことで、
人間として一回り成長する姿を描く。


楽曲が良いのは大前提、その上で、
見せ方にも幾つかの機軸の打ち出しが。

歌詞をテロップで出したり(〔モテキ(2011年)〕のイタダキかな?)、
それがラップの場合にはスーパーインポーズ風に処理したり。

が、一番の仕掛けは地の科白とモノローグの部分をわざと曖昧に見せていることで
これが主人公が変容した時の鍵となる場面に効果的に。


主役は勿論、準主役の二人、更には脇を固める出演者まで
ミュージカルが主戦の俳優・女優や歌手を招集したことで
歌唱のシーンも安心して観ていられる、
精神的にも良い一本に仕上がっている。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆。


気になって原作のコミックをちょっとだけ「立ち読み」したのだけれど、
大まかな設定はそれとして
細かい部分は映画の仕様にかなり変えているのね。

それでも違和感なく観ていられるのは手柄だなぁと感心。

 

SURVIVE-EIKO ISHIOKA/石岡瑛子@ギンザ・グラフィック・ギャラリー 2021年3月6日(土)

後期の会期は2月3日(水)~3月19日(金)。

実は二週間ほど前の昼下がりにも訪問しており、
その際には「地階が混みあっており、入場待ちになります」との案内に踵を返した履歴。

なので今日は捲土重来。
朝イチだったら問題ないでしょ、と
時間を見計らって突入。

思惑通り、11時なら館内は空き空きも、
暫らくすれば来場者で混みあい出す。

大層な人気なのだと改めて驚く。

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リーフレットもこの時点では既に払底しており、
前期の時に入手出来て良かったと独り言ちる。


展示内容で目立つのは本の装丁もそうなのだが、
映画/演劇/展覧会のポスター類。

中でも〔イノセント〕〔地獄の黙示録〕のそれは
記憶に残っているもの。

以降の〔コヤニスカッツィ〕にしろ〔ドラキュラ〕にしろ
『コッポラ』とのかかわりは、ああそれで「アカデミー賞」を取ったのだっけ、と
思いだす。


しかし最も鮮烈だったのは『レニ・リーフェンシュタール』か。

写真集〔NUBA ヌバ〕と〔レニ・リーフェンシュタール ライフ〕は
前者が彼女自身によるもの、後者は『石岡瑛子』の編。

ナチス協力者としてのイメージを
死ぬまで払拭できなかったわけだけど、
石岡瑛子』にしてみれば、また別の思いがあったのだろう。

戦前のJAPANツーリズム@ノエビア銀座ギャラリー 2021年3月6日(土)

開場時間が9:00~と早いのも、
本ギャラリーの特徴の一つ。

界隈のギャラリーの多くが11:00~の開場なので、
その前にひょいと寄っての鑑賞が可能。

スペースがさほど広いわけではなく、
展示数も少ないから、時間が読めるのもうってつけ。

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標題展の会期は1月12日(火)~3月19日(金)。

 ウインドウから中を覗くと、おや
あまり見たことない類のポスターが並んでいる。

興味を魅かれ入場、しげしげと見やると・・・・。


半分は「満鉄」のポスター。
言わずと知れた戦前~戦中の国策会社。

そこがこんな観光誘致のポスターを作ってたんだねぇ。

紹介しているのは勿論、現在の中国国内の景勝地
それをさも我がもののように取り上げているのは、
イマイマの目から見れば複雑。

更にそこに書かれている諸情報にも目をみはる。
本社「大連」、支社「東京」って、
ホントのことなんだろうけど困惑するなぁ。


もう半分は「国鉄」と「JTB」が作成したもの。

昨今と同様、外国に向け盛んに告知をしていたことがうかがわれる。


それ以外にもポストカードやリーフレットなども並べられ、
中には『巴水』の版画をあしらったものも。

日本らしさの表出にこだわった結果の選択だろうけど、
なかなかどうして、現代の告知物としても十分に通用するんじゃないか。

 

太陽は動かない@TOHOシネマズ日本橋 2021年3月6日(土)

封切り二日目。

席数404の【SCREEN7】の入りは二割ほど。

終映後に舞台挨拶のライブビューイングのある回だったが
それほどの入りにはなっておらず。

また客層も意外で、二人の主演男優目当ての女性がもっと多いのかと思ったら、
自分みたいなおぢさんや、カップルの比率もそこそこで。

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随分とぎくしゃくした語り口だなと違和感を感じながらの鑑賞。
妙に説明口調であったり、逆に背景や過程が省略され過ぎていたり、と。

その理由はエンドロールの時に判明。
スタッフの名前と同時に流れていたのは、
本編では組み込まれていなかった数々の映像。

調べてみると「WOWOW」で60分×6話のオリジナルドラマの放送があり、
その後日譚に近い物語りが本作のよう。

道理でね。
予備知識もなしに観ることが、今回は凶となったわけだ。
間違いなくTV版を事前に観ておいた方が理解は進んだだろう。

それ無しでも楽しませてくれた〔コンフィデンスマンJP〕の好例もある訳で、
要は監督の『羽住英一郎』の手腕の問題。
逆境ナイン〕〔ワイルド7〕〔劇場版MOZU〕といった
悪しき前作を思い出したりする。


もっとも、
「次世代のエネルギー開発に纏わる機密情報」なる本作の主軸に対し
鑑賞前から色眼鏡で見ていたのも事実。

あまりにありがちで陳腐なテーマだと、見下していたと言えばより正直か。

ところが物語りが進むに連れ、思いの外ちゃんと構成されたものだとわかって来る。
おやおやきちんと考証されているのだと視方が変わった瞬間。


それは
AN通信とは何か、とか
『鷹野一彦(藤原竜也)』は何故この世界に身を投じたのか、とか
の点でも同様で。

24時間ごとの定時連絡を怠ると爆発する
胸に埋め込まれた爆弾については
最後まで納得感が無かったものの、
それ以外の仕掛けについては、それなりに得心が行くもの。

特に{バディもの}に重要な要素、
我が身を省みず、相棒に対して真摯に向きあう理由、が
過去の体験を含め語れられ件は、
胸に迫るものがある。


実際の列車を使っての撮影も勿論だが、公道でのカーアクションも
見せ場と言えば見せ場。

日本国内じゃあこれだけの外連味のある演出はできないよなと
金の掛け方に感心。

その一方で『田岡亮一(竹内涼真)』も絡めた技斗のシーンは
それほどの斬新さもスピード感も無く。
逆にカットの繋ぎが悪いので、アクションを感じさせない仕上がりに堕している。

過去と現代を往還しながら主人公の生い立ちを語る手法や、
世界観の広がりを出すためだろうか、
各国をぽんぽんと飛び回るシークエンスの繋ぎも
あまり成功しているとは言い難い。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。


24時間のタイマー設定は
サスペンスを盛り上げる装置としては十二分に機能。

が、一方で有能なエージェントをあたら無くしてしまう側面もある訳で。

時代劇のあるある設定、抜け忍には追っ手を放ちとことん追い詰める、が
実際は甚だコスパの悪い掟で、それは組織崩壊の一因ともなりかねない、と
同じ感想を持つ。


何はともあれ、原作者の『吉田修一』による〔鷹野一彦シリーズ〕は
全三作あるらしく、今回はその内二作を使用とのことで
なるほど最後のシークエンスでは、今後に気を持たせる内容にはなっている。