RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

バイス@TOHOシネマズ新宿 2019年4月7日(日)

封切り三日目。

席数499の【SCREEN9】の入りは五割ほど。

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随分と笑わせてくれる一本。
が、その笑いは苦くて後味の悪い黒いもの。

本作の主人公『ディック・チェイニークリスチャン・ベール)』が仕掛けたことの後遺症を
米国は勿論、世界規模でもいまだに引きずっているのを思い起こせば
本来的には あはは と済ませられる軽さではとてもない。

が、個人的にもっとも笑えたのは「トリクルダウン経済政策」の単語が出て来た時。
その結果アメリカでは格差が一層拡大したのではなかったか。
にもかかわらず玉条の様に唱えているどこかの国の政権があることがもう可笑しくて可笑しくて。


おっと閑話休題

彼の存在感が増すに連れ、あるゆる負の事象がパンドラの壺のように湧いて出た。

大企業優遇税制、サブプライムローン、高額相続税の軽減、イラク攻撃、ISの台頭、などなど。
これにより国内では貧富の差が拡大し、国外では紛争が今でもくすぶり続ける。

全てが一人の男の権力への妄執の産物なのは寒心に堪えない。

もっともそれらを、どの様な意図で実行したのかを
今となっては窺い知ることができないのは辛いところ。

劇中でも動機の面ではぼやっとした表現に終始してしまっている。


ではあっても、存命中の人物をこんなにこき下ろしても良いのかと
他人事ながら心配に。

ただ作中ではそれを意図的に取り上げ、セルフパロディー化しているわけで
ちゃっかりと確信犯。

観る側を挑発するシーンも数多あり、作り手からの強いメッセージを感じる部分。


決定権に各種の制限が掛けられている大統領よりも、
一見権限の無さそうな副大統領の方が、
逆に曖昧な立場でより権力を奮いやすい点に目を付けた慧眼。

しかしそれは自分の上に立つ人物が無能な時に限られるわけで
その点では『ブッシュJr.』からの就任要請はまさに渡りに舟。

他方で彼の政策を当時歓喜の声で迎えたのもやはり多くの米国民。

レーガン政権以降の保守主義の強まりは
オバマ大統領の就任で一旦は緩んだもの、ここ二年で再び過去に戻りつつある。

作中の科白で繰り返される「アメリカ・ファースト」などは
イマイマ耳にしない日が無いくらい。

そこからの揺り戻しを指向しているのであれば
彼の国のリベラルもまだまだ捨てたもんじゃない。

エンドクレジットに製作者として『ブラッド・ピット』の名前がクレジットされているのも
(やはり)示唆的。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


たぶんに演劇的な要素を盛り込み、
また寓意的な映像を適宜挟み込んだり、或いは
実際の映像を使ったりと
かなり複雑な造り込みになっており
語り口自体は判り良いとは言えない。

なまじ殆どの出演者が実在の人物そっくりに扮しているので
虚実の境目が余計に曖昧になる錯覚もある。

それらの点をひっくるめて、かなり自分の嗜好には合致した一本。