RollingStoneGathersNoMoss文化部

好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

LION ライオン 25年目のただいま@T・ジョイPRINCE品川 2017年4月16日(日)

封切り十日目。

席数208の【シアター3】は
ほぼほぼ満員の盛況。


本作も最近流行の実録モノ。

しかも邦題では「25年目に、ただいま
しちゃう」との、とんでもないネタバレまで。

なんで、こ~ゆ~お粗末なコトをするかなぁ。

映画の醍醐味を相当に損なってるでしょ。
年月まで明らかにしちゃってるし。

予告編の作り方を含めて
関係者は猛省をすべき。

「泣けるんですよ~」との前振りをしないと
動員が見込めないと踏んでいるんだろうけど
それは観客のリテラシーをかなり見くびっていると思う。

「ライオン」とのタイトルですら
劇中でそれについての言及がちゃんとあり、
すとんと納得できる造りになっているんだから。
もうちょっとあなたたちのコンシュマーを信じてあげようよ。


おっと、閑話休題


やはり結末が予め提示されてしまっているので
興味の方向性は中途の経緯の描写に向けられる。


全くの自分の瑕疵により
故郷から1,600kmも離れた駅に降り立ち
迷子になってしまった僅か五歳の『サルー』。

まずスケールが途轍もない。
日本列島に当て嵌めれば、
北海道から沖縄までの半分の距離だからね。
大人だって戸惑ってしまうだろう。

オマケにこれだけ離れると
使われている言語さえ異なってしまう。
方言なんて、生易しいものじゃない。

インドと言う国の広大さを
観客は思い知ることになる。


やがて彼はオーストラリアに養子に迎えられる訳だが、
それまでに、一波乱も二波乱も。

浮浪児は人身売買により
労働力や臓器提供の対象となるのか、
或いは性の犠牲者になるのか。

本編での描写は
あくまでも匂わせているだけだけど、
我々はそれらを敏感に嗅ぎ取らなければいけない。


そう言った意味で本作の主人公は
幸運に恵まれたと言って良い。

養父母も極めて良い人々であり、
もう一人養子として迎えられた弟分の存在を除けば
なに不自由の無い暮らしを過ごしていたのだが・・・・。


成長した『サルー』が、インドに残して来た家族の存在を
強く思い出すシーンがある。

一連のシークエンスは『プルースト』の〔失われた時を求めて〕を
否応なく想起させる。

食べ物の記憶は、それだけに大きいんだね。


家族探しの契機となるのが、先に挙げたローテクな内容だとすれば、
実際の捜索の役に立ったのが当代のハイテク「Google Earth」なのが面白い。

イマイマの世の中でなければ
こんな砂の中から針を探すような芸当は不可能だったろう。

感情と技術の合わせ技が持ち込んだ幸運と言えようか。


評価は、☆五点満点で☆☆☆☆★。


家族探しに執着するあまり、
人柄さえ変ってしまう一連の描写は
正直、少々腑に落ちなかった。

もっとも、自分は当事者ではないから、
僅かながらの可能性が提示されれば、
人間は脇目もふらず邁進してしまうものなのかもしれない。