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好奇心の向くままどたばたと東奔西走するおぢさんの日記、文化部の活動報告。飲食活動履歴の「健啖部」にも是非お立ち寄り下さい

ナポレオン@チネチッタ川崎 2023年12月3日(日)

封切り三日目。

席数488の【CINE12】の入りは三割ほど。

 

 

「ナポレオン・コンプレックス」とは、
身長が低い男性が持つ劣等感のことで
これが野心や攻撃的行動へのバックボーンになる、との
言説やあり。

が、語源となった『ナポレオン』の実際の身長は170㎝近くあり、
当時としては標準以上ともいわれている。

このあたりをどう描くのかも
本作を鑑賞するにあたっての個人的な興味。

で、結果、監督・脚本家共に、加えて制作にも名を連ねる主演俳優も、
本事象はアリと判断したようにも受け取れる。

ホアキン・フェニックス』の身長は173㎝とも聞く。
西洋人にしてはさほど長身ではない。
それに比して『ジョセフィーヌ』を演じた『ヴァネッサ・カービー』は170㎝と背の高い部類。
その対比を活かした構成が随所に見られる。


歴史に名を残す英雄であっても、
本質は男であり息子であり夫であり父親。

「男」については先に挙げた要件、
「息子」については極端なマザコン
「夫」については先に妻にマウントを取られ、ぞっこん惚れ込んでしまい、
浮気性を知っても強く言えず、望んで関係を続けてしまう。
「父親」についてはただの親馬鹿で、
要は私生活においては、とことん俗っぽい性格付けで、
徹底的に俗に引きずり下ろされる。

夜の生活で妻を満足させられないエピソードの部分は
その典型例だろう。

とは言え奇妙な夫婦関係も
最後には性差を超え肝胆相照らす仲になってしまうのはなんとも不思議。


歴史上の偉人についての{伝記映画}の語り口は殊の外難しい。
出来事は史実に忠実に描くにしろ、
人となりは監督・脚本家の史観が相当に入るものに。

邦画であれば〔関ヶ原(2017年)〕での『石田三成』像を、
一個の人間として描いた視点は秀逸も
生涯をざっとなぞったことに終始したのは不満が残った。

また小説の映画化ではあるものの
燃えよ剣(2021年)〕も似たような過ちを犯してしまっている。
土方歳三』の一代記の抄訳のような
(共に『岡田准一』が主役なのは奇妙な符合)。

では本作の『リドリー・スコット』『デヴィッド・スカルパ』のコンビはどうかと言えば、
たいしたスペクタクルであり、
一個人について深く掘り下げた印象はあるにしろ、
随分と単調な一本になってしまった。

力作ではあるものの、直近の三作に比べれば
〔エイリアン(1979年)〕の前日譚二作に近い出来。

適宜テロップは入りはするが、
舞台となる時代の流れが把握し難いことも理由か。

有名な主人公も、
日本人にとっては子供向けの伝記でなんとなく知っているだけ。
歴史の流れの中で個々の出来事を捉え連環させる知識がないのも
その背景にはありそう。


評価は、☆五点満点で☆☆☆★。